トレーサビリティに関するドイツの小話にみる教訓
トレーサビリティに関するドイツの小話にみる教訓
計量計測のエッセー 
トレーサビリティに関するドイツの小話にみる教訓

トレーサビリティに関するドイツの小話にみる教訓
ドイツの小話の解説
「コンパティブルだがトレーサビリィ不足だった質量測定の一例」

土手の陽だまりに咲く春の花(2月4日撮影)

トレーサビリティに関するドイツの小話にみる教訓

 計量法は経済と文化活動を支える社会基盤として存在意義をもっており、計量の基準を定めることと適正な計量の実施の確保という二つの目的を実現する法体系となっている。
 適正な計量の実施の前提は計量の基準が定められていることであるが、計量の標準が社会の必要な所に過不足なく供給される体制があること、適正な計量器が供給されていることがあわせてなくてはならない。

 計量の標準に係る「計量標準の認証制度」は、一般に「計量法トレーサビリティ制度」と呼ばれている。

 産業界を中心に社会に計量標準を供給する公認の校正サービス事業者は「Jcss 認定事業者」と呼ばれ、日を追うごとに認定者数が増えている。

 計量法トレーサビリティ制度は産業計測標準の需要の増加に民間の計測標準技術、校正技術を保有する者の能力を活用して対応しようとするもので、国が認定する「Jcss 認定事業者」には民間の計測標準機器の製造事業者、校正サービス事業者等が申請をし、所定の要件を満たしていることが確認され認定を受けている。日本の計測標準の供給体制は国が管理する一次標準である国家標準とトレーサブルな関係がオーソライズされた「Jcss 認定事業者」を、産業界等一般への計測標準供給の中核とする社会システムとしてつくりあげられた。

 この社会システムは計量法の定めに従ったものであるものの「Jcss 認定事業者」の業務は校正サービスの業であり、収益を確保できるビジネスとして成立することが実質上の前提になっている。認定事業者の採算性、ビジネスとして成立するものなのかは標準分野ごとに異なるようではあるものの、計量・計測関係事業者の認定を受けることの意欲は小さくないだけに、制度を運営する関係当事者の細心の注意と配慮が求められる。事業者の認定がこのところ停滞していることから、この社会システムの創造的構築および認定事業者の認定促進に向けて行政を中心に推進のための機運を高める必要があるようだ。

 ともあれ認定事業者の数の増大、標準分野の拡大が大きな課題となっているので、主として工業別に事業者認定のための研究会活動等が活発化することに期待したい。

 日本のトレーサビリティについては、概略以上のことを心得ていなければならないが、以下では日本にトレーサビリティの考えが醸成された一九七〇年頃のトレーサビリティの普及・啓発活動のなかで紹介された教訓的な逸話の一つ「ドイツの小話」を引用し、これを一考することで、トレーサビリティを理解する一助としたい。
 
あるドイツの小話

 農家の老婆がパン屋の主人に訴えられて、役人の取り調べを受けた。
 訴えによると、老婆が一キログラムと称して毎日パン屋に届けるバターの目方は、実に八五〇グラムほどしかないのだそうである。
 そこで役人がたずねてみると、老婆は立派な天びんを使ってバターの目方をはかっているのだが、困ったことに、孫が分銅をおもちゃにして見失ってしまった。
 「けれども」と老婆は自信を持って答えた。
 「私はパン屋で黒パン一キログラムを買い、それを天びんの片方のさらにのせ、それと釣り合うだけのバターをもうひとつのさらにのせて、パン屋に届けております。自分の方が違っているはずはございません」と。
 目方をごまかしたのは、実はパン屋のほうだったのである。
     (一九七三年計量研究所第六回学術講演会 「国際単位系しくみと実際」からの引用)

ドイツの小話の解説

「コンパティブルだがトレーサビリィ不足だった質量測定の一例」

 バター一キログラム(一〇〇〇円)=パン1キログラム(一〇〇〇円)という等価式のもと、バター八五グラム(八五〇円)=パン八五〇グラム(八五〇円)という交換が行なわれていたので、農家の老婆とパン屋の主人の間には損得関係は発生しない。

 この等価式に鶏肉一キログラム(鶏肉屋)とジャム1キログラム(ジャム屋)が加わって、鶏肉屋がバター八五〇グラム=鶏肉一〇〇〇グラム=パン八五〇グラム=ジャム一〇〇〇グラム、の取引が行なわれ一巡したとする。取引はお金の物との交換だから、それぞれの手元に残るお金は一〇〇〇円であり、手にした実際価値は農家の老婆一〇〇〇円、鶏肉屋八五〇円、パン屋の主人一〇〇〇円、ジャム屋八五〇円となる。農家の老婆とパン屋間だけの取引の間は損得の不都合は発生しないが、これが社会に連関するとその行為は不当を持つことになる。

 定められた基準と比較することが計量であるから、比較器である老婆の天びんがいくら立派でも、誤った「基準」と比較していたのではその比較が正しくても、その比較は社会的にはつじつまが合わない。

 登場人物のうち悪いことをしてやろうという意識を持っていたのはパン屋の主人だが、正当な行為と思って行なった農家の老婆の行為は結果としてパン屋の主人の行なったことと変わりない。老婆の「一キログラム」が一キログラムであるためには、社会の一キログラムでなければならないが、この一キログラムを決めるのは国の仕事になる。

 国と国の間にも一キログラムの間で整合が取れていなくてはならない。老婆とパン屋の主人の間では質量の比較に関しては、確かにつじつまが合っていた(コンパティブルであった)わけだが、ここに幾人かが加わってくるとそれは社会的関係に変じ、途端にコンティブルではなくなる。

 社会的につじつまの合うコンパティブルな内容の計量を行なおうとすると、国が定めた計量の標準との整合性を確保しなければならないが、このことをトレーサビリティと考えたら分かりやすいだろう。
 
計量法の計量についての定義とJISのトレーサビリティの定義

 「物象状態の量を計ること」を計量法では計量と定義している。物象の状態の量をはかることは、その量の定められた基準と比較し、比較値を数値で表すことによって実現する。比較値の最後に単位記号を付けることによって、その比較値が長さ、質量、時間、電流、温度、物質量、光度等を表する。

 計ることに関する用語には「計測」「計量」「測定」などがあり、この用語はJISの計測用語で意味を規定しているが、この規定は必ずしも社会一般のその言葉に対する認識と符合しないので紹介は差し控える。

 「トレーサビリティ」という用語は計量の仕事に従事する人々の間では普及しているが、その理解内容ということになると必ずしも共通の認識にはなっているとはいえない。JISの計測用語はトレーサビリティを「標準器又は計測器が、より高位の標準によって次々と校正、国家標準につながる経路が確立されていること」と規定している。

 この規定に間違いはないが、社会システムとしてのトレーサビリティを確立しようとする計量計測関係者の意気込みを反映するということでは十分でない。一九七〇年代のトレーサビリティの普及運動では、上位の標準の経路の明確化は当然として、同位の標準の横のつながりのつじつま、つまりコンパティブルな関係の確認に対しての意識が大きく働いていた。そこには上位の標準が尊くかつ偉くて、下位の標準は卑しいという意識はなく、標準のそれぞれに必要な働き場があり、その意味で労働に貴賤がないのと同じに、標準にも貴賤はないという哲学が働いていた。

 産業計測標準の本来の姿は必要な標準が権力や神秘性の衣をまとうことなく、必要な場所にいつでも置かれ、それが頻繁に手軽に使われ、かつ手軽に頻繁に上位の標準と比較(校正)できることである。生産現場には権力や神秘性など無用で、必要なのはツールとしての実用性である。

(1997年3月2日付け日本計量新報社説の再録です)

2019-02-06-lessons-learned-from-german-foreign-letters-on-traceability-of-rerecording-article-editorial-

(不適切な表現などについてはご容赦ください)
 
計量計測のエッセー


計量計測のエッセー ( 2018年1月22日から日本計量新報の社説と同じ内容の論説です)

球速表示160kmは確かか(球速表示160kmは信ずるに値するものなのか)
トレーサビリティに関するドイツの小話にみる教訓 (1997年3月2日付け日本計量新報社説の再録です)
内需依存型産業社会日本と人口減少社会の在り方
見えないモノを見えるようにする計測技術
計量の教養こそ身に付けるべき課題だ
0.1%の計量器の検定・検査が世のなかに適正計量の実現をもたらす
見えないモノを見えるようにする計測技術
強い欲求をもっているとニーズは自ずと分かるものらしい
すべては丈夫な身体と丈夫な心あってこそ
消費は人口減少の度合いで減りGDPも同様に推移する
キログラムは新定義を満足させたうえ50 µgから10 µgに精度向上
質量と重量の違い及び質量の単位キログラムの定義変更
規則に照らせば不正でも総合性能としては問題ない事柄
バベルの塔とノアの箱舟の伝説と旧カヤバ工業の免震性能偽装
計量と計測は人の間にどのようにかかわるか
自動ハカリの検定実施は日本の計量制度に大きな転換をもたらす
2018年11月16日開催の国際度量衡総会で質量の単位キログラム(kg)を定義変更
日本人の頭骨の変化を計測値が示す副題(鎌倉時代の日本人の頭は前後に長い形をしていた)
優良事業所が適正計量管理事業所の指定を受ける社会的責任
計測の目的と求められる確かを考える
地方計量行政の模範県を躊躇なく真似たい
自動ハカリの指定検定機関制度と行政組織の関わり方
1%の検定で計量の安全を実現している日本の計量制度
自動ハカリの指定定期検査機関の動向を観察する
計測の在り方と計測値の表示をめぐる諸事情
計量協会webサイトから日本の計量行政の未来が見える
光波干渉測定システムはアインシュタインの理論を事実として確認した
収賄で終身刑になる中国要人と首相をかばい罪に問われる日本の官僚

ウィキペディアによる計量の世界の説明は1割ほど
時代の波と計量器産業の浮き沈み
世界でも範たる状態を築いている日本の計量行政
中国では日本以上の人口減少状態が出現している
ハカリの定期検査実施漏れは計量憲法である計量法違反だ
城下町の鍛冶屋が日本の産業の元になった
山口高志投手の球がベース通過時点で一番速かった
福島産の農産物と海産物と放射線測定器
通信と自己診断機能は計量器の法制度を変える
計れと人を管理したQC運動に対比される品質工学
モノの数量表現と性質表現の仕組みである国際単位系(SI)
計量法の実質の内容を変える政省令の理解と解釈
ハンドルで曲がらずブレーキで車は止まらない
計量計測のエッセー

学校は記憶容量とアプリケーションを確認するところ
計量検定所長の仕事は検査機関運営費をたっぷりと確保すること
社会の計量の安全の確保は住民サービスの基礎
神鋼素材は計測器性能に影響がない
田中舘愛橘の志賀潔と中村清二への教え方





自動ハカリの検定実施は日本の計量制度に大きな転換をもたらす
2018年11月16日開催の国際度量衡総会で質量の単位キログラム(kg)を定義変更
事実は小説よりも奇なり 二つの事件
計測システムがわかることが計測における教養だ
世の中は計測でできている
計測の目的と精密さの実現の整合
日本人の頭骨の変化を計測値が示す副題(鎌倉時代の日本人の頭は前後に長い形をしていた)
優良事業所が適正計量管理事業所の指定を受ける社会的責任
計測の目的と求められる確かを考える
地方計量行政の模範県を躊躇なく真似たい
自動ハカリの指定検定機関制度と行政組織の関わり方
1%の検定で計量の安全を実現している日本の計量制度

学校は記憶容量とアプリケーションを確認するところ
計量検定所長の仕事は検査機関運営費をたっぷりと確保すること
社会の計量の安全の確保は住民サービスの基礎
神鋼素材は計測器性能に影響がない
田中舘愛橘の志賀潔と中村清二への教え方

 
旅のエッセー集 essay and journey(essay of journey) 

滋賀県・草津市の宿で王将の餃子をたべた

京都三条の街は気詰まりで滅入る

神戸は港町だが山の街でもあり大都市だ


神戸は港町だが山の街でもあり大都市だ

霧ヶ峰 雪景色

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正月の下呂温泉は一夜にして白銀の世界になった

上高地 晩夏

風の子の子供たちですが人は風邪を引いてはなりません

川崎大師平間寺で願い事をする

霧ヶ峰高原の八島湿原の周りに出現する景色(2)
薄く積もった雪道を踏みしめる。クロカン四駆の世界だ。

霧ヶ峰高原の八島湿原の周りに出現する景色

霧ヶ峰高原 晩秋の八島湿原

霧ヶ峰高原 晩秋

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ダイヤモンド富士

酉の市(おとりさま)

浅草の浅草寺界隈に足を向けた 外人がいて蜘蛛の巣の鉄塔が見えた

旧塩山の恵林寺界隈を見物した

仙台藩と青葉城

カラスウリが赤くなって秋です

スズランが赤い実を付ける秋の始まりです
 
 
 
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