紀州犬物語(89) 必要なときにワンと吠えて賊をとらえたある紀州犬の物語。 執筆 横田俊英。
(タイトル)
必要なときにワンと吠えて賊をとらえたある紀州犬の物語。
(2歳8カ月にして初めてワンと吠えた紀州犬のオス犬。)
第89章 必要なときにワンと吠えて賊をとらえたある紀州犬の物語。 執筆 横田俊英
必要なときにワンと吠えて賊をとらえたある紀州犬の物語。
(2歳8カ月にして初めてワンと吠えた紀州犬のオス犬。)
狼(おおかみ)は、人が犬と同じようにして飼っていると、やがてワンと啼くようになることを平岩米吉氏は実際の飼育経験を通じて確かめている。大人になった狼がそのようになるのだ。
そうすると犬がワンと啼くのが当たり前で、ワンと啼かない、あるいはワンと吠えない犬は当たり前でないことになる。
私の飼い犬の紀州犬のオスは生後2歳8カ月にしてやっと、ワンと吠えた。
家の前にいた不審者にワンと吠えた。
夜に家の前にいた人を不審者と考えてワンと吠えたのである。
この写真を撮影したその日の夜にワンと初めて吠えました。2歳8カ月のことです。
飼い主との散歩から帰ってくると、家の前にいた見知らぬ人をみてこの犬はワンと吠えた。見知らぬ人を警戒し、縄張りである敷地と家を守るという意識が、この生後2歳8カ月の紀州犬をして、ワンと吠えさせたのだろうか。
それまでこの犬は何かの要求があると、キューキューと啼くのであり、そのようなときにワンという吠え声を発したことがなかったのである。知らない人が来ると、同じ敷地にいるほかの犬がワンと吠えて警報するときに、この犬は吠えたことがなかったし、いつもの要求の声のキューキューという音を発したことがなかった。
それがある日、突然に、不審者に対してワンと吠えたのであった。
この犬は余所の犬と対面すると尾を横に勢いよく振るのが常であり、そのときに攻撃の態勢などとらずに、遊びたいという姿勢で過ごしてきた。
普段の散歩中に立ち止まって犬を駐立させると尾をあげて首をあげて、しっかりした構えをとるのであった。しかし、そこに犬がよってくると尾を勢いよく横に振って親愛の情を示すのであった。このことは飼い主にとっては不満であり、ワンと吠えなくてもよいから、無視の姿勢で通し欲しいのである。
10歳になる先住のオス犬犬たちの親玉だ。
紀州犬のこのオス犬は2歳8カ月までの間に、4頭のメス犬と交尾をしている。
この家には10歳になる先住の紀州犬のオス犬がいて、この犬が犬たちの親玉になっている。
どの犬もこの10歳のオス犬の支配下にあって、2歳8カ月のオス犬も親玉が接近すると、尾を横に激しく振って対応してきた。
11カ月になる別の紀州犬のオス犬は、親玉の犬の犬舎の前に進んでいって鉄格子に顔を突っ込むという親愛の行動をとっているのである。
この犬には敵というものがなくて、度の犬も自分より年上であり、先輩であると思うのと、普通の遊び相手であるということになっているのである。
無邪気そのもので、本当の意味での上下関係の意識は薄いと考えられる。
しかし少なくとも自分が上位にあるとは思っていない。
親玉に代わりたいという潜在意識はある。
2歳8カ月のオス犬はこの頃では、親玉の犬の前を通ってもその顔を見ることがなく、親玉の犬舎の前でオシッコを長々とするのであった。どこかで上限関係を強く意識していて、まともに反抗することはなくても、どこかで親玉に代わる位置に身を置きたいという潜在意識はあるようにも思われる。
メス犬との交配をするのに、このしかしのオス犬を家から遠く離れたところに連れ出していたのであった。それをこの一月ほどの間に2度行ったそれぞれ違うメス犬との交配においては、親玉のオス犬の前にしつらえた犬舎のなかでこれを実施したのであった。
親玉のオス犬と2歳8カ月のオス犬と、交配相手のメス犬を連れての旅行中に、交尾期にあたる日を何日も過ごしていて、交尾の機会を与えているのに、親玉の犬の前では交配相手にまたがって交尾の行動をとっても、交尾には至らなかったのである。
親玉の前での交尾が2歳8カ月のオス犬の気持ちを変えたのかもしれない。
ある人は親子の紀州犬を飼っていて、その子のオス犬は母親の前では連れてこられた交配相手と交尾することがなかったという。この家の親玉は母親であって、その子のオス犬は力が強くなっても終生、母親の上に立つことがなかった。
2歳8カ月にして初めてワンと吠えた紀州犬のオス犬は、ここ家の親玉犬に遠慮があり、支配もされていたのであろうか。そのような状態にあって、一月の間に二度も交配相手の別々のメス犬と交尾したために、親玉犬からの拘束が少しゆるんだのかもしれない。
あるいはまた年齢が高まり犬としての成熟が少し進んだために、幼児的な状態から脱することになったのかも知れない。
そしてまた飼い主との間の関係が深くなったために、飼い主を脅(おびや)かす外的に対して威嚇(いかく)と攻撃の姿勢をとるようになったのかも知れない。
必要なときにはワンと吠えて賊をとらえたある紀州犬の物語。
東京都足立区である人が飼っている紀州犬は、一度もワンと吠えたことがなく、居るのだか、居ないのだか、わからないようにしていたが、本物の賊が窃盗目的で屋敷に侵入してきたときには、猛然としてこの賊を取り押さえた。まことに物語のような話であるが、こうした実話が私の身近にあった。
紀州犬にはそのような犬が少なくなく、ある一定の年齢に達するか、必要が生じると、ワンと啼くのである。
ワンと啼かない紀州犬のことについては、ある人のメス犬が1歳になっても2歳になってもウンとスンとも啼かないと嘆いていて、これが悩みだといってNHKの犬の悩み相談に投書をした。
モノを知らない獣医医師の言葉を信じて惑わせる犬の飼い主たち。
その相談はテレビで取り上げられることがなかったが、犬の病気のこと、飼い方のこと、躾のこと、犬種の性質のことなどを、飼い主は獣医師に尋(たず)ね、ある種の回答を得ることで、納得することが少なくない。
その獣医師は犬や動物の病気の診断と治療を行うことについて、法的な権限を獲得しているとはいえ、すべての病気の診断とその治療を間違いなく行うことができる人ではない。
そのような獣医師や動物病院に病気以外のことを尋(たず)ねて、出てきた回答を絶対化するのが普通の人の状態である。
白い毛をした日本犬のような犬には、紀州犬であります、という返答があるので、その白い犬はいつの間にか紀州犬かその雑種ということになる。私の取り扱った百を超える事例のなかに、どのような形であってもその親が紀州犬であることを証明する血統書が示されることはなかった。
街にいる獣医師が紀州犬の雑種だという犬はただの白い犬だ。
街で拾ってきた白い犬の9割以上は紀州犬との間にまっとうな血液の縁などない犬であると、私は思っている。
そのようなことから私の犬には紀州犬の血統証明が付いているけれども、よその人に聞かれると「私のこの犬は白い犬です」と答えるようにしている。しつこく尋(たず)ねられたら、「街で拾ってきた白い犬です」と答える。
犬は白い毛色に向かっていくようになっているようだ。白毛の遺伝性が強いのである。
だから街には白いような犬が増えるのである。とくに望まれずに生まれた犬には白い毛の犬が多くなるのである。
街で拾われる犬に白い毛の犬が多いのはこのためである。
私が繁殖した犬には血統書を添えることは当然ではある。
紀州犬の子犬は生後30日になればワンと吠える。
紀州犬の子犬は生後30日になればワンと吠えます。生後20日でワンという吠え声に聞こえる音をだす犬もいる。
身体が小さい犬はワンがキャンというように聞こえるし、身体が大きい犬はワンがウオンともバウとも聞こえる。
紀州犬のワンという吠え声は飼い犬によって高低差があるので、このワンという声はあいつだととっさに判断が付く。
キュンキュンとしか啼かなかった紀州犬のオス犬が、2歳8カ月になったらワンと吠えたのは一つの大きな変化であり、ある何かの区切りであるのだろう。
犬を一頭だけ飼って居る人にとっては、その犬の行動がすべてであり、その行動がその犬種の行動のすべてと判断しがちである。ささやかな個別の事例を総合として置き換えることがないように、注意してかからなけらばならない。
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