「猫額に犬が来た」-猫額通信9-村田浩美(製品評価技術基盤機構 認定センター勤務)
写真は赤毛の柴犬 オスで生後4か月です。
一昨年の夏から犬を飼い始めた。
猫額大の庭を眺めながら、犬の額をホリホリ撫でながら暮らすのが老後(笑)の夢であったが、共働きの時は二人して出張も多く、犬を飼っては却って可哀想なことになると、主人の定年退職の時期を見計らっていた。
動物愛護団体が保護している犬を引き取ろうかと講習会にも参加してみたが、引き取り資格者は60歳以下という年齢制限があり、主人がすっかり落ち込んだ。
確かにせっかく保護してめでたく引き取ってもらったのに、飼い主が病気になったり亡くなったりしては本末転倒である。
愛護団体からの譲渡は諦め、計量関係で一緒に仕事をしてきた方で4代柴犬を飼い続けているという人からブリーダーを紹介してもらい、春から連絡を取り続け、6月にお見合い、一目惚れしてようやくお輿入れとなった。
赤の柴犬、牝(メス)。日本犬なんだから日本らしく、毛の色を取って名前は「きなこ」にした。
シニアの知人の方々から「村田さん家は、犬を飼い始めるとしたらここ数年が最後のチャンスだよなあ。」と言われたが、保護動物の引き取り資格者に年齢制限があることを知っていたので、仰るとおりと苦笑いしながら頷いた。
予防接種が終わりようやく10月から散歩デビューして、家の近所を回り出した。
毎日2回30分以上の散歩のうち、朝の散歩は私の仕事。20年近く住んでいるというのに初めて歩く路地に毎日・季節毎の新たな発見。
朝の澄んだ空気を吸いながら、ある日は西の空に傾きかけた煌々と光る満月を眺めながら、今日・今週の仕事や家事の段取りを頭の中で整理するのにとても良い時間。
我が家の近所には民家の間にうねうねとした細い小道が多数あり、車が絶対入ってこられないので犬の散歩には最適なのだが、これが武蔵野の雑木林や田畑のあちこちに流れていた小川の名残なのだと気づいて、昔の風景はどんなだったのだろうと想像すると楽しくなった。
早朝犬の吐く息が白くなり、○ん○からもほかほかと湯気が立ち上るようになると冬の訪れ。犬の毛がどんどん抜けてくると、これはもう春の訪れである。
柴犬は端正な外見なのに実はダブルコートであるため意外に抜け毛が多く、この抜けた毛で何か社会の役に立つことができないものかと呆然としてしまう程である。
夏は、犬だって一番気持ちのいい場所を探して寝ている、猫と一緒。
人間同士ではすれ違っても挨拶もしないが、犬と一緒に散歩していると初めて会う人とでも「おはようございます」と気軽に声を交わすことができる、犬を見ると皆笑顔になり、今まで話したこともなかった近所の方とも世間話をするようになる、犬はとても凄いインターフェイスであると気づいた。
近所の散歩や買い物で連れて行ったホームセンターで、愛犬を亡くしたがもう飼えないからと寂しい思いをしているお年寄りに多数遭遇した。
庭の木戸口から毎朝声をかけてくれる方、日々の散歩コースとして楽しみにしてくれている車いすの方、毎日のように公園でゆでたササミをくれる方、猫額庭の犬を通していろいろなことが見え、さまざまな人との交流が増えた今日この頃である。
(執筆 独立行政法人製品評価技術基盤機構 認定センター 村田浩美 2017年夏)
「猫額に犬が来た」-猫額通信9-村田浩美(製品評価技術基盤機構 認定センター勤務)