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アラゴーの円盤とグリニッジ本初子午線 松本栄寿(日本計量史学会理事)
ルーブル美術館には、フランスが本初子午線をめぐってイギリスと争った証しが残されている。
それは中庭に残る径12センチのアラゴーの円盤である。


アラゴーの円盤とグリニッジ本初子午線 松本栄寿(日本計量史学会理事)


アラゴーの円盤とグリニッジ本初子午線 松本栄寿(日本計量史学会理事)

 ルーブル美術館には、フランスが本初子午線をめぐってイギリスと争った証しが残されている。それは中庭に残る径12センチのアラゴーの円盤である。

 パリ市は1995年に135枚の円盤をアラゴーの生誕200年を記念して市内に埋めた。フランスがメートル法の制定のため測量した足跡である。

 地球を対象にした大規模な科学的な測量はまずフランスからはじまった。天文学者カッシーニの一族の測量から、フランス革命時にはメートル法制定のための測量が行われた。
 
図1:ルーブルとアラゴーの円盤(著者)


1、.メートル法をめぐる国際会議

 フランスではダンケルクからスペインのバルセロナ1100キロを測量し、それをもとに長さの基準(メートル法)の制定をめざした。1792年から6年もかかった測量だった。この測定値をもとに確定メートル原器が造られた。また、革命中の測量の正しさを確認しようとフランソワ・アラゴー(1786-1853)は1806年に再測量をおこなって測量の差は2ミリメートルに過ぎないことを実証した。

 これらをもとに、1870年代にはメートル法の国際会議がしばしば開かれた。1872年には国際原器と国際局の設立、1875年の外交官会議でメートル法条約が決定された。参加国24ヵ国、賛成16、反対2、保留4である。このとき反対はイギリス、オランダであった。

2、.本初子午線をめぐる国際会議

 1884年、ワシントンで国際子午線会議が開催された。子午線をめぐっては、イギリス、フランス、スペイン、デンマークなどがそれぞれ本初子午線を主張していた。各国の天文台を東経・西経の基線にする案である。

図2:本初子午線をめぐる各国


イギリス、フランス、デンマーク、オランダなどが主張
 
 参加24カ国、アメリカからグリニッジ案が提案され、結果は、賛成21、反対1、棄権2である。フランスは棄権している。

 イギリス代表団からは政府が発行する海図と航海暦がフランス、アメリカ、ドイツを含む各国が大量に購入している事実が報告された。イギリスの代表団にはケルビン卿が参考人として出席していたが、大西洋横断ケーブルの敷設の経験からグリニッジ子午線が役立つと発言した。

 メートル法との差を探ってみよう。メートル法測定時代と本初子午線決定時との間には大きな技術革新があった。

(1) ハリソンのクロノメータの普及:1764年にH-4型が完成したが、普及は遅れ1821年以降に「航海暦」とともに使われるようになった。

(2) 正確なグリニッジ時間の伝達:電信によって、1852年からイギリス王立天文台からグリニッジ時の外部への伝達が可能になった。

(3) 大西洋横断ケーブルの敷設とウイリアム・トムソン(後のケルビン卿1824-1907):大西洋横断ケーブルは1857年と1858年に敷設が始められた。何度も失敗するが

 30代の若者ケルビン卿は、最初の敷設から最後の成功まで敷設船に同乗していた。まず、彼は1858年時の難問、受信信号がくずれ判読に長時間かかる問題を解決していた。ケーブルを太くし、外被との電気容量を小さくする方法である。

(4) アメリカの南北戦争とケーブル:南北戦争で中断、1865年に再開されたが、途中でケーブルを船から落としてしまう。再度1866年に成功したが、その際に1865年に失敗したケーブルを引き上げて再使用できるようになった。

 1866年の敷設作業のさいに、敷設船船長の提案で敷設中のケーブルを介して、グリニッジから時報を受信していた。これから正確な経度が分かり、ケーブルの引き上げに成功した。巨額の投資が戻った。

図3:大西洋横断ケーブルの敷設
Harper’s Weekly (1858/11/4)


3、グリニッジ時報の電信伝達

 電信の伝達が、自分が地球のどこにいるかを知ることを可能にした。これが、メートル法測量に基本を置こうとしたフランスの主張を退け、グリニッジが本初子午線に決定した大きな理由である。

 しかし、アラゴーは測量家であり、物理学者であり、電磁誘導を発見した。政治家でもあったが、最後はパリ天文台台長を務めている。パリの天文台を南北に貫く135枚のアラゴーの円盤には、メートル法、測量、電力測定、それぞれの意味合いがこめられている。

図4:アラゴーの円盤(パリ市内に135枚)


文献:
1)計量新報2005年5月22号
2)小泉袈裟勝著「度量衡の歴史」中央計量検定所編(1961)
3)Protocols of the Proceedings; ”INTERNATIONAL CONFERENCE HELD AT WASHINGTON, for the purpose of fixing A PRIME MERIDIAN and A UNIVERSAL DAY”, (October,1884)
4)デレク・ハウス(訳:橋爪若子)「グリニッジ・タイム」東洋書林(2007)

 (執筆 松本栄寿 日本計量史学会理事 2017年7月)

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