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私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)

私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版)
神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その15- 時代の要求で生まれた「計測工学科」の名が消えた
神戸大学「計測工学科」は「システム工学科」に、今では「情報知能工学科」になっている



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私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版)
神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その15- 時代の要求で生まれた「計測工学科」の名が消えた
神戸大学「計測工学科」は「システム工学科」に、今では「情報知能工学科」になっている

時代の要求で生まれた「計測工学科」の名が消えた

神戸大学「計測工学科」は「システム工学科」に、今では「情報知能工学科」になっている


計測工学科在学中 大学祭で計測のアピール

 前回に述べたストレーンゲージにも見られるように、1955(昭和30)年から1965(昭和40)年にかけてのわが国の高度成長期には、計測・制御技術の発達速度は特に大きかったような気がする。

 私が卒業研究で手がけていた容量式膜厚計にしても3、4年後には商品化されていた。いろいろな事柄に関し、次々と新しい技術が生まれ、開発され、世の中に出ていき、その分野の在来の固有技術が重宝されなくなり、計測機器も次々安く売り買いされるようになった時代だったように思われる。

 こうなれば、大学の「○○工学科」の設置・変更も柔軟に対応してゆかねばなるまい。電気工学・機械工学……といった並びでなく、時代の要求があって生まれてきた学問であってみれば、その必要性が薄れば消えてゆくしかない。母校の「計測工学科」も、その後は「システム工学科」に変身し、今では「情報知能工学科」になっている。会社にも「計測課」は、もうない。かっての熱管理課・計量整備掛もなくなって、今は「制御技術」となっている。

 「熱管理」もその後、「省エネ」になり、「環境」から「温暖化防止」へと変わっていった。

かつての計測屋が企業には要らなくなった、良い時代になったものだとつくづく思う

 この時代の流れに身を置いて、虚心坦懐にこの現象を見るならば、次に見えてくることは、計測機器メーカーの成長である。かつては「こんな会社は……」と思っていたところが今は立派になっている。JCSSの認証も取っている。放っておけば、何を持ってくるか判らない業者もいなくなった。

 次には情報の流れが盛んなことである。もう20年も前になるだろうか、「計測機器等は電話帳をみれば何でも買える」と言われた時代があった。昨今は情報量が遥かに上回るインターネットが出現している。これに繋げば何事も即座に解かるのだから、人間の経験や記憶ははたしてどんな役目を持つのだろうかとも思ってしまう。

 3番目にはやはり、標準物質や計量のトレーサビリティの普及ないしは日常化であろう。ISO/IEC17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項)も整えられ、MRA(相互承認協定)もOIML(国際法定計量機関)も根づいて地球全域を覆っている感がある。これらによって、かつての計測屋が企業には要らなくなった。良い時代になったものだとつくづく思う。

プラントを知りプロセスを見つめ問題を見つけて定量化できる人間は必要だ、それが企業の計量士の職務

 さすれば、計量士は要らないかとなると、「それは間違いだ」と言わねばならない。産業社会では計測・計量という行為は不確かさという補正項付きで、必ず必要であり、なくてはならないものである。プラントを知り、プロセスを見つめている人間、問題を見つけて定量化できる人間は今も必要であり、それが企業の計量士の職務だと、私は考えている。

 質量測定では浮力が付きまとう、温度測定では放射率誤差、挿入深度誤差がある、流量では層流か乱流か、圧力でも絶対圧か相対圧かというように、環境によりまるで異なった数値が出てくる。自然はそう簡単にはその真理を人間に教えてはくれない。ここに計測の醍醐味を味わわせてくれる計量士の仕事がある。より正確に測定することにより、変化する対象を一層明確に捉えることができる。

 このようにして問題の定量化ができれば制御技術も生まれてくるというものである。問題は何か、いかにすればコストダウンに結び付けられるのか、品質とはどのようにかかわっているのだろうか。全てが計測機器の問題とは言わないが、機器の使い方を含めた定量化技術を持つこと、第三者にわからしめる方法を持つことが重要なのである。

 もっと現代的な言葉では、プロセス屋というのかもしれない。そのような仕事は今も残っているし、これからも出てくるであろう。計量値の有効利用(計量して得た値は繰り返し、重ねて利用されなければならない)、これは計量管理の第一歩である。

 今日の工場では、専門の計測屋は要らないかもしれないが、計量管理は制御技術と平行して存続しているし、今後もせねばならないと考える。

夏休みの工場実習は川崎製鉄(現JFEスチール)の千葉工場に


川崎製鉄での実習 筆者は後列右から4番目

 私が通っていた神戸大学工学部では、3年生の夏休みに工場実習が行われていた。どこでもいいから好きなところを選んで、先生に推薦状を書いてもらうというシステムであった。

 父に相談すると「千葉に行け」と一言で返ってきた。父の勤めは、川崎製鉄の中でも計測機器を使う製鉄所ではなく、計量器を作る計量器工場であったが、当然の事ながら川鉄の各製鉄所・工場が最大のお得意さんであったために、そこに設置されている計測機器の事情には精通していた。また、全社で構成された計量管理組織に名を連ねていた事もあり、知人も多かったのだろう。

 その父が、千葉にはありとあらゆる新しい計測器が揃っていると言い、おまけに良く知っている人にお願いをしておくので歓迎してもらえるともいう。

全国から実習生が

 1961(昭和36)年当時の川崎製鉄は、国内でも初めての「臨海一貫製鉄所」を千葉に建設している途中であったから、最も近代的な計量・計測設備が導入されていたのであった。

 7月始めに約3週間の実習目的で千葉に行ってみると、他大学の4年生と共に過ごすことになっていた。この人たちは皆就職を川鉄に決めている人達で、就職を決めていない私が入っているのは何だか気が引けたが、あまり気にせず、仲間に入れてもらった。この人達にいろいろ教えてもらい、大いに刺激を得た。特に夕食後、北大から九大に至るから各地から集まった人達による会社の評価や各大学の実態の話を非常に興味深く拝聴したものであった。

 一方、職場に行けば、父の知り合いが多く、中には家庭にて夕食をご馳走してくれる人もいて、恐縮した。

 1961(昭和36)年の川鉄・千葉には、電子管式自動平衡計器を始め、300tまで計ることのできるハカリ、1600℃を計る温度計、調節計でのフィードバック制御等、学校では見かけない装置があり、目を輝かせたものであった。

 結局、この3週間の体験とその驚きが “この世界が最も面白い”という印象となり、卒業後もここに就職することにした。

就職決定

 私が大学を卒業する頃は、どこの企業も引く手あまたで、希望するところはどこでも行けた。

 しかし、我が神戸大学の計測工学科は、柴田圭三主任教授の方針で「一社一名」となっていた。創設後初めての卒業生を送り出すので、出来る限り多くの企業に行って欲しいということであった。同じ川鉄志望の友達が1人いたが、彼とは話し合って席を譲ってもらった。

 1962(昭和37)年4月1日、入社式は川崎製鉄(株)神戸本社で行われた。壇上に上がった西山弥太郎社長が、一同を見渡して驚いた表情になり、脇の人事部長に「ようけやな! 何人取ったんだ」と尋ねた。後にも先にも川鉄で大卒の採用人数がこれほど多かったのは、この年だけと聞く。

 後々には「石を投げれば37(昭和37年入社)に当たる」と言われたものだ。しかし我々にとっては、どこに行っても「同期の桜」がいて心強かったし、何をするにも同士がいて重宝であった。

 この頃は、私にとっては最も恵まれた日々であったと言えよう。

(つづく)

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神戸大学「計測工学科」は「システム工学科」に、今では「情報知能工学科」になっている


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私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版)
神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その1-はじめに
西宮高校から神戸大学の計測工学科に進み川崎製鉄千葉製鉄所で計量の仕事を始める

私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版)
神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その2-我が家と計量の係わり
祖父の高徳純教が「はかり屋」を始め社名に「メートル」を用いた気概に敬服

私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版)
神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その3-「異人さん」と「神戸メートル協会」
母は大阪の船場の商家の生まれで、“こいさん”(末娘)として育った

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その4- 父(忠夫)のはかり屋「高徳衡機(株)」
裕福な青年期を過ごした父は祖父が始めた「はかり屋」の跡を継いだ

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その5- 私の誕生は1936(昭和11)年9月である
私が誕生したのは神戸の御影という阪急とJRに挟まれた静かな住宅街であった

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その6- 1943(昭和18)年、私は魚崎小学校に入学した
疎開列車は家族揃って城崎温泉に湯治に行ったときと同じ流線形の蒸気機関車

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その7- 1高徳家の由来
酒醸造や両替商を営みかつ庄屋でもあったのが我がご先祖、姫路藩ご用達となり苗字帯刀を許されたらしい

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その8- 疎開地・丹波での小学生時代
疎開先で雑音と音声の途切れる玉音放送をラジオ屋の前で聞き後で戦争に負けたのだと教えられた

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その9- 田畑を耕し薪採りをした中学時代
高校1年生になる1952年までの10年疎開地に居着くことに 1949年に湯川博士のノーベル物理学賞

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その10- 父のはかり屋への復帰
私は京都府立福知山高校入学後の3学期に編入試験を受けて兵庫県立西宮高校に転校した

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その11- 西宮での高校生活
2・3年生の担任は英語教師である「英語は丸覚えなり」と指導され、これに従って何とか様になった

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その12- 文学への傾倒
浪人時代お金はない。参考書代が小説代に化けていった。父は「芳忠には小説を読ませるな」と。

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その12-2- 牧師と教会の人々
私を育ててくださった他大学の関西学院小林信雄氏ほかの偉い先生方

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その13- 楽しき神戸大学での学生生活
ボート部では艇が走る水音とスピード感、漕ぎ疲れ艇庫に戻る時の疲労感と達成感に浸る

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その14- 国立大初の神戸大学「計測工学科」に進む
J・トムソン(英国)の言葉「科学は計測に始まる」に感激、「科」とは禾(か)(稲・麦などの穀物の総称)を斗(容量の単位)るに学をつけて科学

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その15- 時代の要求で生まれた「計測工学科」の名が消えた
神戸大学「計測工学科」は「システム工学科」に、今では「情報知能工学科」になっている







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