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私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)

私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版)
神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その12- 文学への傾倒
浪人時代お金はない。参考書代が小説代に化けていった。父は「芳忠には小説を読ませるな」と。



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私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版)
神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その12- 文学への傾倒
浪人時代お金はない。参考書代が小説代に化けていった。父は「芳忠には小説を読ませるな」と。

文学への傾倒

始まりは幸福論から

 世の中には、幼い頃から読書が好きで暇を見つけては家にある本を片端から読んでいたとか、図書館に通っていたとかといった武勇伝まがいの話がよくある。

 そんな人は作家になったり、学者になる人で、私のごとき凡人は少なくとも中学校までは全くその気がなく、母が少女小説を姉や妹に読んであげていたのを横で聞いていたり、兄から『少年クラブ』記載の探検小説他の話を聞く程度であった。

 そんな自分が小説を読み始めたのは、英語のテキストでB.Russellの『Conquest of Happiness(幸福論)』を読み始めたことによる。

 内容に何か惹かれるものがあり、それほど得意でない英語であったが、ついつい先を読み進んだ。一体「幸福論」とは何ぞや? という問いを持ち、武者小路実篤やアランの『幸福論』とも読み比べたものであった。

 自分自身への主体的な関わりの始まりであったのだろう。

『こゝろ』に感銘を受ける

 順序は前後したかも知れぬが、倉田百三の『愛と認識との出発』『出家とその弟子』も懐かしい。亀井勝一郎も同様。その挙句に、夏目漱石の『行人』『門』『こゝろ』に至った。

 受験勉強の最中ではあったが、私の関心は「生きるの死ぬの」に移っており、勉強どころではなくなっていた。

 中でも漱石自身が、読者に対して、「人の心を知らんと欲する人に、心を知りえたるこの書を勧む」と語りかけたと云われる『こゝろ』は最も感銘が深かった。

 『行人』の主人公の一郎は「孤独なるものよ、汝はわが住居(すまい)なり」とつぶやき、また「死ぬか気が違うか、夫でなければ宗教に入るか。僕の前途には此の三つのものしかない」とも語る。

 この辺りを、我が意を得たりとして読み返していた若き自分が懐かしい。

漱石から芥川へ

 続いて、芥川の『西方の人』や、太宰の『人間失格』を読むうちに、何か明るいものがあるような気がしてきていたのもたしかである。

 そんな経歴の末、ふとしたきっかけがあり、キリスト教会に通うようになった。我が家の伝統的宗教は浄土真宗であり、丹波で世話になった唯一の親戚で隣に在ったお寺も同じく浄土真宗であった。したがって親近感は大いにあったが、当時は本が見当たらず、丹波に行った際にお寺のお経堂に入って親鸞の本も手にしたが、難しくてよく解らなかった。

 一方この頃は、キリスト教は解説書も多くあったし、当時最高裁判所長官の田中耕太郎、東大学長の矢内原忠雄、作家の遠藤周作・椎名麟三といったリーダー的な方々がクリスチャンということも自分に安心感を与えていた。

 そんな頃、お寺の叔母さんには何か悪い気がしたので、丹波に行った時、何かのついでに「近頃自分はこんな勉強をしています」と打ち明けたことがあった。叔母さん曰く「どんな方面でも一緒や、勉強が何よりよ」と優しかった。

兄貴の心遣い


大学生の兄(右)と筆者

 浪人時代の自分には、お金がある訳ではない。参考書代が小説代に化けていった。ついに父は「芳忠には小説を読ませるな」と母や兄姉に言い渡しているとも聞いた。仕方なく図書館にも通ったが、やはり手元において読みたいので、駅前の本屋に“付け”(帳簿に付けてもらっての後払い)で買ったりもした。

 ある時、かなり付けが溜まった気がしていたので、祖母に頼んで払ってもらおうと心に決め、勇気を出して金額を尋ねたところ、残金はゼロだと言う。店員では解らぬと思い、後日奥さんに聞いてみたら、「お兄さんが払われました」とのこと、兄貴の顔が仏に見えた。

 家庭においては、こんな人達に見護られて、私は間もなく教会で洗礼を受ける事となった。

(つづく)

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その12- 文学への傾倒
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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録-その1-はじめに
西宮高校から神戸大学の計測工学科に進み川崎製鉄千葉製鉄所で計量の仕事を始める

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録-その2-我が家と計量の係わり
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母は大阪の船場の商家の生まれで、“こいさん”(末娘)として育った

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その4- 父(忠夫)のはかり屋「高徳衡機(株)」
裕福な青年期を過ごした父は祖父が始めた「はかり屋」の跡を継いだ

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その5- 私の誕生は1936(昭和11)年9月である
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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その6- 1943(昭和18)年、私は魚崎小学校に入学した
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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その8- 疎開地・丹波での小学生時代
疎開先で雑音と音声の途切れる玉音放送をラジオ屋の前で聞き後で戦争に負けたのだと教えられた

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その9- 田畑を耕し薪採りをした中学時代
高校1年生になる1952年までの10年疎開地に居着くことに 1949年に湯川博士のノーベル物理学賞

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その10- 父のはかり屋への復帰
私は京都府立福知山高校入学後の3学期に編入試験を受けて兵庫県立西宮高校に転校した

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その11- 西宮での高校生活
2・3年生の担任は英語教師である「英語は丸覚えなり」と指導され、これに従って何とか様になった

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神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その12-2- 牧師と教会の人々
私を育ててくださった他大学の関西学院小林信雄氏ほかの偉い先生方





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