アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
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アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
(質量によって空間が歪むことを確かめた光波干渉計)
アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
画像は重力波のイメージ図 国立天文台による。
アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
ブラックホール連星のイメージ図 KAGRA計画による。
アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
大型低温重力波望遠鏡KAGRAのイメージ図 KAGRA計画より。
アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
レーザー干渉計型重力波検出器 KAGRA計画より。
アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
連星パルサーの研究で重力波が間接的に証明された。
マサチューセッツ工科大学(MIT)などからなる国際研究チームが「重力波」の観測に初めて成功したことを2016年02月と発表した。重力波とは、超新星爆発や中性子星連星の衝突合体などで発生する、空間や時間の歪み現象である。アインシュタインは1916年に一般相対性理論からこの重力波の存在を予見していた。MITらが観測に成功したと発表したのは、米ワシントン州とルイジアナ州にある重力波観測施設「LIGO」で観測した重力波とみられる現象を分析した結果である。LIGOはL字型に配置された2つのトンネルのような施設で、各トンネルの内部をレーザー光線が移動する時間を比較し、重力波の影響を受けたときに現れる移動時間のずれを観測している。LIGOは2002年から8年間のあいだに重力波を観測できず、2010年からその感度を4倍に高める設備改良を施して2015年からふたたび観測をはじめていた。重力波と発表されたのは2015年9月に観測したデータで、研究チームはいまからおよそ130億年前、太陽の30倍ほどの質量をもつブラックホール2つが衝突合体した際に放出されたと説明している。ブラックホールは光すらも飲み込んでしまうため直接観測するのが困難な天体である。重力波の観測によってブラックホールを直接に観測したことになる。1993年には連星パルサーの研究で重力波の間接的な証明をした米国人物理学者2名がノーベル賞を受賞している。一般相対性理論では時間と空間を相対的なものとして認識し、映画『インターステラー』は重力が大きな場所(天体)であるほど地球から見た時間の進み方は遅くなることを描いている。重力波は大きな質量と重力を持つ天体が光速に近い速度で運動するときに強く発生する。光の1/2ほどの速度で衝突した2つの巨大な重力を持つブラックホールが時間と空間の歪みを生み出し、宇宙という広大な海のさざ波となって伝わった。その波が重力波である。その歪みは地球と太陽の距離において水素原子一個程度の大きさである。
(タイトル)
アインシュタインが予言した重力波と観測の歴史
(本文)
重力波理論と重力波を捉えることの歴史
宇宙から波として伝搬する時間と空間(時空)の歪(ゆが)みを含みもっているのが重力波である。重力波を観測するために米国、日本、ヨーロッパのイギリスとドイツ共同の、フランスとイタリアの共同のそれぞれの設備を連携して運営することで、重力波天文学がに道が開けており、その成果が期待される。設備は数カ国の四つの大型のレーザー干渉計が連携する形で構成される。
アインシュタインが予言した重力波は間接にはとらえられていたが、2016年2月11日に米カリフォルニア工科大と米マサチューセッツ工科大などの研究チームが発表した重力波の直接の検知であり、2015年9月14日に米国にある観測装置「LIGO」(ライゴ)に重力波が作用した。レーザー干渉計によって直接に検知されたのである。
重力波(じゅうりょくは)は、時空(重力場)の曲率(ゆがみ)の時間変動が波動として光速で伝播する現象である。この現象は電磁波とは違う。アルベルト・アインシュタインは1916年に一般相対性理論に基づいて電磁波の存在を予言していた。アーサー・エディントンは1919年5月29日に皆既日食を利用して、一般相対性理論により予測された太陽近傍での光の曲がりを確認した。重力波の直接観測としては、2016年に米国の重力波検出器(レーザー干渉計)「LIGO」(ライゴ)によって、連星ブラックホールの合体イベントによってなされた。
一般相対性理論にもとづく宇宙理解は次のように進展する。1922年には、宇宙膨張を示唆するフリードマン・ロバートソンモデルが提案されるが、アインシュタイン自身は、宇宙が定常であると信じていたので、現実的な宇宙の姿であるとは受け入れなかった。1929年にエドウィン・ハッブルが、遠方の銀河の赤方偏移より、宇宙が膨張していることを示したために一般相対性理論が予測する時空の描像が正しいことになった。アインシュタインは宇宙項の導入を取り下げ、「生涯最大の失敗だった」とジョージ・ガモフに語った。
スブラマニアン・チャンドラセカールは1931年に理論的計算によって白色矮星の質量に上限があることを示した。チャンドラセカール限界として知られる式は、万有引力定数 G、プランク定数 h、光速 c の3つの基本定数を含み、古典物理、量子物理の成果を集大成している。チャンドラセカールは、「星の構造と進化にとって重要な物理的過程の理論的研究」の功績でノーベル物理学賞(1983年)を受賞した。
ロバート・オッペンハイマーとゲオルグ・ヴォルコフ (George Volkoff) は1939年に中性子星形成のメカニズムを考察することで重力崩壊現象が起きることを予測した。その後一般相対性理論は数学的産物という扱いになって物理研究の主流からは外れていた期間が長かった。
重力波が物理的な実体であるのかどうかという議論やアインシュタイン方程式の厳密解の分類方法などの研究がつづく。パルサーの発見やブラックホール候補天体の発見が1960年代にあり、ロイ・カーの回転ブラックホール解(カー解)の発見を契機にして一般相対性理論は天文学の表舞台に躍りでた。スティーヴン・ホーキングとロジャー・ペンローズが特異点定理を発表した。ジョン・ホイーラーらは古典重力、量子重力の物理的な描像を示す。ホイーラーは1957年にワームホール、1967年にブラックホール発表する。
特異点定理のロジャー・ペンローズは、ブラックホールの研究での貢献を評価されて 2020年のノーベル物理学賞を受章している。同時受賞者としてドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所のラインハルト・ゲンツェル、アメリカ・カリフォルニア大学のアンドレア・ゲッズの二人がいる。ゲンツェルとゲッズは、宇宙の観測技術を発達させ、地球が属する銀河の中心部の太陽の400万倍の質量の超巨大ブラックホールの存在を明らかにした。
ペンローズは、アインシュタインの一般相対性理論によってブラックホールの形成を証明した。ペンローズはスティーブン・ホーキングと連携して宇宙開闢(かいびゃく)とブラックホールの存在を数学的に明らかにした。ペンローズとスティーヴン・ウィリアム・ホーキングは、一般相対性理論と関わる分野で理論的研究を前進させ、1963年にブラックホールの特異点定理を発表した。1971年には「宇宙創成直後に小さなブラックホールが多数発生する」とすることを示し、1974年には「ブラックホールは素粒子を放出することによってその勢力を弱め、やがて爆発により消滅する」とする理論(ホーキング放射)を発表する。これを契機に量子宇宙論が説かれるようになった。を形成した。『ホーキング、宇宙を語る』ホーキングは2018年3月14日に76歳で逝去。
ホーキングにノーベル賞が授与されることが期待されていた。スエーデン王立科学アカデミーノーベル賞委員会は宇宙開闢とブラックホールの理論を理解できなかった。間違っていたらノーベル物理学賞に傷が付くと考えてもいた。
物理理論の高度領域の理解は難しい。アインシュタインのノーベル賞は一般相対性理論ではなく、光量子仮説に基づく光電効果の理論的解明の功績を評価するという形をとった。アインシュタインと同時代を生きた日本の物理学者は、ニュートン力学の理解に全力で取り組んでいたために物理学の認識を根本から変える理論である一般相対性理論を理解することが難しかった。日本の物理学の新時代は湯川秀樹や朝永振一郎らの若い世代が切り開くと物理学の古老が家族に語っている。
アルベルト・アインシュタインは、特殊相対性理論および一般相対性理論、相対性宇宙論、ブラウン運動の起源を説明する揺動散逸定理、光量子仮説による光の粒子と波動の二重性、アインシュタインの固体比熱理論、零点エネルギー、半古典型のシュレディンガー方程式、ボーズ=アインシュタイン凝縮などを示した。ブラックホールは、極めて高密度で強い重力のために物質だけでなく光さえも抜け出すことができない特殊な天体であり、アインシュタインの一般相対性理論の結果として形成されることが理論的に明らかであった。アインシュタインは1955年4月18日に76歳で逝去。
ブラックホールと質量のことである。アンドレア・ゲッズはブラックホールが大きな質量を持っていることに由来して極く近くを周回する恒星がものすごい勢いで動くことを観測した。光の速さの2.5倍で動く恒星はそこに巨大質量のブラックホールがあることの証明でもある。日本の観測者たちもブラックホール近傍の映像の撮影に成功している。アンドレア・ゲッズは大気のためにゆらぐ望遠鏡でとらえて映像を補正することでそれまでは見えなかった恒星を捉えることに成功している。恒星の特定とその動きからブラックホールの存在を確認した。アンドレア・ゲッズは、二体のケッグケック望遠校を使って最高水準の補償光学によって天の川銀河の中心に超大質量ブラックホールの存在を示した。
ペンローズはスティーブン・ホーキングとともに「ブラックホールの特異点定理」を研究し、特異点定理では、アルベルト・アインシュタインが提唱した一般相対性理論から導き出される結論である重力が無限大になる「特異点」、つまりブラックホールが存在することを1965年に証明している。
ラインハルト・ゲンツェルとアンドレア・ゲズのノーベル賞は「天の川銀河の中心にある超大質量で小さい物体の発見」への功績として授与された。二人はそれぞれ、90年代から研究チームを率い、天の川銀河の中心に位置する「いて座A」と呼ばれる領域を研究した。この領域の明るい星の軌道を観測したところ、それぞれのチームが「非常に重くて目に見えない物体」を発見している。太陽並みの質量を持つ約400万個の天体が、その物体を中心に太陽系よりも小さな領域に集まっていることが分かった。二人の研究チームの発見が、天の川銀河の中心に超巨大ブラックホールがあることを示した。2020年ノーベル物理学賞の賞金は、ペンローズに賞金の2分の1、ゲンツェルとゲズにそれぞれ4分の1分配され。
小柴昌俊は科学は何の役にも立たないと述べる。これは直ぐには役に立たないけれど必ずどこかで役に立つということの裏返しのことばである。人が電子を発見したことでどうなったか。コンピュータの発達は電子の理解からでてきた。ピンホール効果はトランジスタを生み出した。私たちはどこからきて、その私たちは何者で、どこへ行くのか、という素朴な疑問に答えようとするのが科学である。光波干渉計はアインシュタインの予言である質量によって空間が歪むことを証明する計測に成功している。小柴昌俊が観測したニュートリノは質量を持っていて地球をも貫通する。一体どうなっているのか、と普通の人は思い悩む。ニュートリノの集積された質量計算によって宇宙の正体にせまることができる。
重力波とその観測である。ジョゼフ・テイラーとラッセル・ハルスは1974年に、連星パルサー PSR B1913+16をみつけた。連星の自転周期とパルスの放射周期を精密に観測すると、重力波 により連星系からエネルギーが徐々に運び去られていた。重力波の存在を間接的に証明したのである。二人は「重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見」として1993年にノーベル物理学賞を受賞している。
宇宙論研究では、1947年に提唱されたビッグバン宇宙モデルが有力とされているが、さらにその初期宇宙の膨張則を修正したインフレーション宇宙モデルが1981年に説かれている。2006年のWMAP衛星による宇宙背景輻射の観測によりビッグバン宇宙モデルならびにインフレーション宇宙モデル決定的になった。
アインシュタイン以後、一般相対性理論を積極的に否定する観測事実や実験事実はない。他に提唱されたどの重力理論よりも一般相対性理論は単純な形をしていることから、重力は一般相対性理論で記述される、と現代の物理学は考える。
重力レンズ効果について。重力場中では光が曲がって進む。アーサー・エディントンは、1919年5月29日の日食で、太陽の近傍を通る星の光の曲がり方がニュートン力学で予想されるものの2倍であることを観測で確かめた。これによって一般相対性理論が正しいことを示した。
水星の近日点の移動について。ニュートン力学だけでは、水星軌道のずれ、つまり近日点移動の大きさの観測値の説明ができなかった。一般相対性理論を用いることによって太陽の質量による時空連続体の歪みに原因があることが示される。
重力波について。時空の歪み(重力場)の変動が伝播する現象。線型近似が有効な弱い重力波の伝播速度は光速である。アインシュタインによる予測の発表から100年目の2016年に、アメリカのLIGOにより直接観測された。
膨張宇宙について。時空は膨張または収縮し、定常にとどまることがないこと。ビッグバン宇宙を導く。
ブラックホールについて。限られた空間に大きな質量が集中すると、光さえ脱出できないブラックホールが形成される。
重力による赤方偏移について。強い重力場から放出される光の波長は元の波長より引き延ばされる現象。
時間の遅れについて。強い重力場中で測る時間の進み(固有時間)が、弱い重力場中で測る時間の進みより遅いこと。
一般相対性理論は慣性力と重力を結び付ける等価原理のアイデアに基づいている。等価原理とは、簡単に言えば、外部を観測できない箱の中の観測者は、自らにかかる力が、箱が一様に加速されるために生じている慣性力なのか、箱の外部にある質量により生じている重力なのか、を区別することができない。
相対論によれば空間は時空連続体であり、一般相対性理論では、その時空連続体が均質でなく歪んだものになる。つまり質量が時空間を歪ませることによって、重力が生じる。大質量の周囲の時空間は歪んでいるために光は直進せず時間の流れも影響を受ける。重力レンズや時間の遅れといった現象となって観測される。質量が移動する場合、その移動にそって時空間の歪みが移動・伝播していくために重力波が生じる。
アインシュタイン方程式から得られる時空は、ブラックホールの存在や膨張宇宙モデルなど、アインシュタインがそれらの解釈を拒むほどである。ブラックホールや初期宇宙の特異点の存在も理論として内包している。特異点の発生は一般相対性理論そのものを成立させなくする。量子重力理論の進展はこの困難を解決する。
素粒子物理学の標準理論では重力相互作用を伝達する素粒子として重力子(graviton)が想定されている。2016年の時点ではこれは検出されていない。重力波の検出は、現在の一般相対性理論研究の大きな柱の1つである。重力波検出のために巨大な設備のレーザー干渉計や共振型観測装置が世界の数拠点で稼働している。日本では飛騨市神岡に建設中の「KAGRA」(かぐら)が稼働している。重力波は非常に弱いので観測装置の能力が不足すると直接の信号はノイズに埋もれて見つけにくい。このため観測データから重力波を抽出するために重力波の波形を理論的に計算して予測する研究がつづけられてきた。レーザー干渉計方式の重力波望遠鏡をつかった米国「LIGO」チームは重力波を直接に明瞭にとらえている。
重力波は物体が加速度運動をすることにより放出される。星の崩壊などによる完全な球対称な運動や円盤状物体の回転などによる円筒対称な運動からは放出されない。巨大な質量の天体が光速に近い速度で運動するときに重力波は強く発生する。ブラックホール、中性子星、白色矮星などの大きな質量を持つ天体が連星系を形成すると、重力波によってエネルギーを放出して合体する。
地球から13億光年の位置にある2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転して衝突したときに発生した重力波を米国の観測装置「LIGO」が検出した。これによって時空の「さざ波」のような状態の重力波が直接に観測された。
重力波をつかまえるための米国の光波干渉を原理とした観測装置「LIGO」
2つの鏡を4キロメートル離れたところに設置すると、重力波によって陽子の直径の1万分の1の変化が生じる。「LIGO」の検出器でこれを検出(測定)したのである。
「LIGO」(ライゴ)は、L字型をした2基の同じ検出器をルイジアナ州リビングストンとワシントン州ハンフォードに設置されている。検出した信号が本物であるためには、両方の検出器で同時にキャッチされなければならない。検出器はL字型に直交するアームのそれぞれに鏡を設置している。通過する重力波は、時空を1つの方向に引き伸ばし、もう1つの方向に押し縮めて、検出器のアームの長さをごくわずかだけ変化させる。この変化をレーザーで測定する。
重力波が観測できるとアインシュタインの方程式を使うと、どのような天体現象がその重力波を発生させたかを推定できる。とらえた重力波は2つのブラックホールの衝突によって発生したものだ。2つのブラックホールが合体し太陽の60倍の質量を持つ1つのブラックホールを形成された。
巨大な恒星が死んで押しつぶされるときに形成されるブラックホールは、宇宙で最も奇妙な天体の1つである。近づいてきた物質や光を巨大な重力で捉えてしまう高密度のブラックホールは「ゆがんだ空間がぐちゃぐちゃにかき混ぜられて刻々と変化していく」のだ。
飛騨市神岡に建設さた重力波望遠鏡「KAGRA」(かぐら)が米国「LIGO」(ライゴ)や欧州の観測装置と連携されると三角測量の原理によってして重力波を発生源の方角や位置を特定できる。
重力波の働きで生ずる動作を観測できる重力波望遠鏡は、光学望遠鏡あるいはエックス線望遠鏡では見えなかった現象がとらえられる。これまでは見えなかった宇宙の現象にせまるのが重力波望遠鏡である。
重力波で宇宙を見ることは、人類が初めて赤外線X線やマイクロ波の目で宇宙を見たときに匹敵する。人類は何千年も前から可視光で恒星や惑星を見て、その動きを観察してきた。赤外線で見た宇宙は、星々が生まれてくる高温の塵(ちり)の塊(かたまり)でいっぱいだった。X線で見た宇宙は星々の死骸だらけであった。マイクロ波で見た宇宙はビッグバンの高熱の名残に満たされていた。観測に重力波を用いることによって天文学は何を見ることができるのか期待される。
重力波望遠鏡は重力波をつかまえて観測する新しい手法の望遠鏡である。電磁波ではよく観測できなかった遠方の天体や天文現象をつかまえることができる。ブラックホールはそれが推定されたのちにさまざまな方法で証拠をつかまえた。重力波望遠鏡は新しい形でブラックホールをみる方法となる。
アインシュタインによって1916年に予言された重力波は、一般相対性理論のなかでもとりわけ奇妙な現象である。重力波はブラックホールの衝突、中性子星の合体、恒星の爆発など、時空を伸び縮みさせるほどの激しい高エネルギー現象によって発生する。
人は日常では時空の伸び縮みを感じない。時間は一様に流れており風景が伸び縮みしない。カリフォルニア工科大学の「LIGO」のチームを率いるアラン・ワインスタイン氏は、「それでも重力波は、この瞬間にも私たちの体を通り過ぎています。これは確かなことなのです」と述べる。「LIGO」のチームは総勢千名をこえる人員で構成されている。重力波が地球を通り抜けているのは確実なのに、それを観測できなかったのは、空間の伸び縮みが極度に小さいことによる。その大きさは10の21乗分の1メートルである。原子核を構成する陽子の直径の100万分の1だ。
学術誌『フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)』に発表された「LIGO」チームの原稿を見た米国国立電波天文台のスコット・ランサムは「とんでもなくすばらしいデータです」と述べる。「特段の統計的操作もせずに、検出器の生のデータに重力波を見てとることができるなんて、ほとんど誰も期待していなかったと思います」とつづける。
「LIGO」の科学者たちは、信号は本物だと確信している。見積もりによれば、これだけ本物らしい偽(にせ)の信号は20万年に1度しか入ってこない。「LIGO」は2015年10月12日にもブラックホールの合体により発生したと思われる候補信号を少なくとも1つ検出しているが、それが偽(にせ)の信号ではないという確証はないと述べる。
米国の「LIGO」の重力波検出装置は1辺が4キロメートルの管をL字形に配置されている。直角に交わる部分から2方向にレーザー光を同時に放ち、4キロメートル先の鏡に反射して戻ってきた光を重ね合わせる。重力波が通過すると時空がゆがむために、重ね合わせたレーザー光にずれが生じる。このずれを計測(観察)することによって重力波が検出される。
重力波がぶつかると二つの物体の間の距離が変化してみえる。それを検出する装置が「LIGO」のなど重力波望遠鏡である。重力波による物体間距離の変化は、直交する二つの方向のうち、片方が伸びたときはもう片方が縮むという変化を繰り返す。その伸縮量は物体間距離が離れているほど大きくなる。
同じ光を直交する二方向に向けて発射し、遠くに置いた鏡で反射させ、また戻ってきた光の到達時間を両方で比較して長さを測る。伸びた距離を走った光のほうが短い距離を走った方の光より帰ってくるのに時間がかかるため、伸縮の有無が分かる。
光が走る腕の長さは4キロメートルほどが限界である。これは地球が丸いためその影響がでるからだ。腕の長さは4キロメートルであると一回折り返しでは8キロメートルになる。片腕に二枚の鏡をつけてその間を何度も反射して折り返すと光が70キロメートル走る。
世界で最も感度のよい「LIGO」重力波望遠鏡であっても、数百年に一度の重力波イベントしか捉えることができなかったのが設備の能力を飛躍的に高めてことで重力波の直接検出することができるようになった。観察能力の向上は1年に数回の重力波イベントの観測を実現することに通じる。
日本で「KAGRA」(かぐら)計画として進められている神岡鉱山地下の設備による観測の成果が期待される。重力波望遠鏡の「KAGRA」計画では、感度向上のため他の装置にはない二つのことをした。
一つは神岡鉱山内という地面振動が少なく、温度や湿度の安定な環境に設置することだ。神岡鉱山内の振動は地上の100分の1である。重力波検出装置を長時間運転し、観測するための利点になる。20メートルの小規模サイズの設備であってもプロトタイプ検出器(LISM重力波プロトタイプ)では極めて簡素な制御のみで、当時の複雑な制御系を組み込んだどの大型検出器も達成できていないかった1週間以上の連続運転を実現している。
二つ目は検出器にサファイアという光学素子を使用し、それを世界最低振動の電気冷凍器によってマイナス253℃という絶対0度のマイナス273.15℃に近くまで冷却することで、検出器の感度を制限していた熱雑音を低減している。プロトタイプとして神岡鉱山内にCLIO(Cryogenic Laser Interferometer Observatory)検出器を建設し、低温鏡を利用した検出器の実証実験が行われている。
岐阜県飛騨市の神岡鉱山はニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」で知られるが、同じ神岡鉱山跡地に大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が完成している。
「KAGRA」は地下200メートル以深に掘った片腕3キロメートルのL字型トンネルを利用する巨大なレーザー干渉計で、重力波の到来による2点間の距離の変化を検出する。今年度中に試験観測を開始した。「KAGRA」とは「神岡」のKAと重力をイメージする「Gravity」や「Gravitational wave」のGRAを組み合わせてつけられた名称で「かぐら」と読ませる。大型低温重力波望遠鏡計画が「KAGRA」計画であり、この望遠鏡の構造は地底深くに設置されたレーザー干渉計である。レーザー干渉計型重力波検出器なのだ。
重力波は波動現象だが、人類が道具としてきた電磁波の仲間とは異なる特徴をもっている。重力波は重力を発生する起源である質量が運動することで生じる。質量は物理学では時空の構造を決定する要素である。数学の領域にあった目に見えないな天文現象を観測の領域に導いたのが重力波を使った宇宙の観察である。電磁波を使った観察と異なる天文観測の新領域である。
計測と計測機器の視点に立って重力波望遠鏡を理解すると、重力波望遠鏡はレーザー干渉計による精密な長さ(距離)測定である。ある距離の間を行き来するレーザー波が重力波が到来すると歪(ゆが)むために、その行き来の時間が変化する。時間の変化は長さ(距離)の変化である。
(文章は計量計測データバンク)
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2019計量士全国大会写真集-その1-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会写真集-その2-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会写真集-その3-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会写真集-その4-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
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2019計量士全国大会 ユーチューブ 動画集-その1-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
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