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信頼の構築と維持の重要性 OTプランニング(株)代表取締役 小野威(計量士)
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現在、技術コンサルタントの会社のOTプランニング(株)でコンサルタント業務を行なっておりますが、この業務を行なえるのも皆様の信頼を得ることが出来ているものと思っており、今後も皆様の期待に答えられるように信頼の維持に努めていくことにしております。日本コカ・コーラ(株)ではジョージアコーヒーや新製品のプロセス開発・製品導入を行ない、品質管理を最重視しブランドの信頼性の構築や維持に全力で取り組んできました。一度消費者の信頼を失うとその回復には多くの努力と時間が必要になるばかりか信頼を回復することができないことにもなります。
最近の日本の製造業において長年培われてきた信頼を根底から覆す出来事が多く発生しており、今まで世界で認識されてきている勤勉でまじめで信頼のおける日本人や日本企業のイメージが崩壊しかねない自体になっていると思われますが・・・・基礎杭打ちや耐震ゴムのデータ偽装、橋梁の耐震偽装工事、廃棄食品の転売、自動車の燃費データの改ざん・偽装、エアーバッグの破裂事故等が大きな問題となりました。また、技術力のある大企業の経営破たんによる台湾企業への身売り、経営戦略の失敗による経営不安など日本を代表する大企業が信用を失墜するような事態が起きております。
最近大きな問題となったのは自動車メーカによる検査業務の不正で国が定めたルールによると国家資格を持っている検査員が出荷前に消費者に納入する新車の安全性を確認する検査を行うことになっているにも拘らず、検査資格を持っていない検査員が検査を行なうことが30年以上も前から日常的に行なわれていたとの事でした。
この検査業務は知識があれば国家資格が無くても検査業務を行なえるものであり、車の安全性には問題が無い(社内の認識としてですが・・・・)との観点から実施され、国に提出する必要のある最終書類には検査資格者の捺印を押していたとのことですが、国のルールとして決められていることは守らなければならず会社ぐるみでルールを無視してきたことは大きな問題であり、特にトップが人手不足であったので仕方なかった?との認識は企業としての責任の欠如の典型的なことではないでしょうか。
ルールは自ら守るべきもので誰かのチェックを受けるものではなく、日本企業や日本人は必ず守っているとの信頼がありましたが・・・このことは今まで培ってきた信頼を失うと共に企業の業績に大きな影響を及ぼすことになります。
私は国家資格である計量士(経済産業省登録番号:第9678号)の資格を持っておりますが、計量法に基づいた計量・計測器の検定検査には必ず計量士が立ち会い検査結果を確認・承認し、検査結果に責任を持つことが計量法のルールとして義務付けられております。
この検査業務は計量士の立会い無しで計量士の資格を持っていない人が計量の知識を持っていれば出来る可能があり、この検査結果の書類に計量士が捺印すれば正規の検査書類にすることも可能になりますが、この行為は明らかな計量法のルール違反になります。
現実には行なわれていないとも限りませんが、このようなことで計量の世界が信用を失うことがないようにしっかりと監視していかなければならないと思っております。また、最近の計量制度の見直しにおいて自動はかりの一部が特定計量器として検定の対象となり、検定検査を行なう機関として指定検定機関の立ち上げが可能になっております。
指定検定機関の申請条件として一般計量士3名、計量の知識の要件を満たしたもの3名が必要になりますが、これらの計量士等は社員である必要がないため名義貸しや兼務など実際の検定検査に立ち会わないような状態が起こらないように計量業界としてしっかり監視し皆様の信頼を裏切らないように信頼の維持に努力していかなければならないと思っております。
最近、さらに大きな問題になっているのは根底から日本企業や日本人の信頼を失墜させる最も悪質な事例は産業の基盤といわれている業界で起こっている素材の品質データの偽装ではないでしょうか。素材はメーカからの品質データを信用してあらゆる産業に使用されており、素材製品の品質は企業が最も重視しなければならないものであります。
そのデータを偽装することが会社全体で行なわれていたことに日本企業及び日本人の信頼が地に落ちた様に非常に悲しい気持ちになってしまいますが、さらにビックリすることは企業のトップの認識の無さで、産業の基盤になる素材の品質データの偽装は納期を優先した結果とトップが平然と論じていることに非常に違和感を持つと共にこの企業の体質のあまりの情けなさに背筋がが凍る思いです。
産業の基盤になる素材の品質データの偽装は強度も含めて非常に大きな問題でありこのデータを偽装された素材は自動車、飛行機、新幹線、建築物等あらゆる物に使用されており日本の産業や世界の産業に大きな影響をもたらすと共に今後の耐久性に疑問を生じることになります。
今まで長年信頼の構築と維持に努力してきた日本企業の信頼を一瞬で失うことになり、一度信頼を失うとその回復には今まで以上の期間と努力が必要になるばかりか、信頼の回復が出来ないことにも繋がりかねません。近い将来あらゆる場所で事故や崩壊等が起こらないことを祈っております。
商取引は顧客との信頼関係の上で成り立っておりますので店頭における商品の重量表示は正確であると思われておりこの信頼関係において商取引が成立しております。その信頼を維持するために計量・計測器の検定検査や制度の維持管理に計量士が大きな役割を占めていることは一般的には全く知られておりませんが・・・・。
しかし、ビアホール、レストラン、居酒屋等における日本酒、ビール、ワイン等の販売にはメニューや徳利、グラス、ジョッキ等に明確な容量表示がなくても商取引(お金を払うこと)が行なわれておりますが、何を基準にして商取引が成り立っているのでしょうか?1合徳利、グラス、大、中、小ジョッキ等での表示で値段が決められておりますが、店によってこれらの容器の容量に違いがありますので、基準としては明確ではないように思われます。店と消費者(酒飲み?)との信頼関係で成り立っているのでしょうか・・・・。
日本酒やビール等の製造においては製造で使用する1升ビンやビールビン等は特定容器として計量法で容量が厳しく規定されており、日本酒やビール等の製造工程における製造設備の工程管理や品質管理において容量管理は厳しく行なわれておりますが、店頭では日本酒、ビールやワインは徳利やグラス、大・中・小ジョッキ、デキャンタ等で販売されており、これらの容器には容量表示がありません。
メニューに容量表示はありませんが・・・・基本的に計量法では取引証明に使用する計量・計測器は厳しい管理が義務付けられておりますが、これらの容器(徳利やジョッキ・グラス等)には容量表示が無く、販売される容量は販売側の裁量に任されているのでしょうか。
“酒飲みはこのようなこと(容量が明確ではないこと)は気にしないよ”との声を聞きますが・・・消費者にメニューの容量表示や容器の容量表示は計量の大切さや訴える手段として消費者保護の観点からも必要ではないかと思っております。
EU(特にドイツ)ではビールやワイン等は面前販売計量容器としての計量線入りジョッキ、グラスやデキャンタを使用しての販売が義務付けられており、さらにメニューには容量を明確に表示することが計量法によって規定されており、このルールを守らなかった場合には罰則規定があります。
日本においても江戸時代には1合・1升枡が計量器として使用されており、容量不足の枡を作成した場合や使用した場合には“打ち首の刑”になったとの事ですが、日本においては昔から“日本独自のなあなあでもごまかしは無い”の文化があり、販売者側の良心に委ねられていることになりますが、最近ではごまかしの世界が存在していることも多くないと思われます。現状では消費者は明確に容量や重さのわからない商品にお金を払っているのではないでしょうか。
日本においても容量線入りジョッキ、グラス、デキャンタや正確な1合徳利(現状は1合以下?)での販売が必要ではないかと思っております。現在、関東甲信越計量団体協議会の容量線入りグラス推進委員会を立ち上げ委員長として活動を行っております。今までの調査から一部では日本でも容量線入りジョッキ、グラス(大部分が輸入品)、デキャンタ等を見ることが出来ますが、グラスの容量を明確にしていることはありませんし、メニューにも容量の表示が無いものが大半です。
今後この活動を通じて容量線入りグラスの導入とメニューの容量表示を広めていくことにしたいと思っており、将来、日本において多くの販売店等で容量線入りジョッキ、グラスや容量が正確な徳利、デキャンタ、メニューの容量表示が導入されることを願っております。容量線入りグラス等の導入やメニューの容量表示が計量の大切さを訴えることになり消費者との信頼関係の構築や維持に大きな役割を果たすことになると思っておりますが、皆様はいかがお思いでしょうか。
2017年11月15日投稿(2018年2月掲載 計量計測情報 日本計量新報編集部)
信頼の構築と維持の重要性 OTプランニング(株)代表取締役 小野威(計量士)