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日本の重力値の新基準とハカリによる質量測定


「質量は重さと混同される場合も多いが異なる概念である。物体の重さとは、その物体が受ける重力の大きさを表し、
重力が異なる場所ではその重さは異なる。しかしその物体の質量は同じである」

明治34年の国際度量衡総会で、「物体そのものを構成する物質の分量である質量(基本単位kg)」と、
「質量と重力加速度の積に等しい重さ(重量)」とは異なることを決議した。

日本の重力値の新基準とハカリによる質量測定(2017年7月4日記載)


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日本の重力値の新基準とハカリによる質量測定



 「日本重力基準網 2016( JGSN2016)」は一般に「重力値地図」(重力マップ)

 日本の重力値の新基準を国土地理が2017年3月15日に公表した。日本の重力値の基準の更新は40年ぶりのことである。公表された「日本重力基準網 2016( JGSN2016)」は一般に「重力値地図」(重力マップ)と呼ばれており、ハカリなどの検定や定期検査あるいは調整のための校正にさいして、その地域の重力値を用いて補正される。

 多くのハカリは重力値によって値が変動するので、どこで計っても同じ値になるように均す作業をしている。精密なコイルバネを使っていると重力値のことなる北海道と沖縄では北海道で1000gであるものは沖縄では999gとして表示される。この違いを補正するために「日本重力基準網 2016( JGSN2016)」(「重力値地図」(重力マップ))による重力値が用いられる。

 沖縄での計量は北海道より1000gに対して1g軽くなる。10kgでは10g、100kgでは100g軽くなる。

 g(グラム)の1000倍がkg(キログラム)であり、kg(キログラム)は質量の単位である。計量法における取引と証明に関係するハカリによる計量は質量の計量である。補正の措置をしなければ沖縄での計量は北海道より1000gに対して1g軽くなる。10kgでは10g、100kgでは100g軽くなる。だから重力値を掛けて補正する。このことによって見掛けは質量の計測になる。

 左右が上下に揺り動くヤジロベー式の天びん秤では地域によって変動する重力値の影響を排除できる。質量の値が確かめられた分銅と計りたいモノとを釣り合わせているからだ。使われる分銅は地域による重力値の影響が除去されているのである。モノの質量を計るハカリとしての使用頻度としてはヤジロベー式の天びん秤(はかり)は非常に少ない。

 古文書は「こぶんしょ」ではなく「こもんじょ」だが、ニュートリノは重さではなく質量だ。「質量」理解へのアナウンサーのとんちんかん

 NHKアナウンサーが古文書を「こぶんしょ」の言った俳優のあとを受けて即座に「こもんじょ」という言葉を添えた。大したことではないのにご苦労なことだ。訂正された俳優の面子(めんつ)はどうなるのか。専門家が「ニュートリノの質量」と説明するとアナウンサーは「ニュートリノの重さ」と言いかえた。アナウンサーは何を考えたのか。教養からでた言葉なのか無知からでた言葉なのか。無知からでた言葉であることが明らかだった。

 国際的混乱をさけるため1901年(明治34年)にパリで開かれた国際度量衡総会は質量を「物体そのものを構成する物質の分量である質量(基本単位kg)」と定義した

 質量と重さ(重量)の区別はしにくいが人の教養にかかわることだから知っておくとよい。重さ(重量)を質量の意味に使うためにおこる国際的混乱をさけるため1901年(明治34年)にパリで開かれた国際度量衡総会で、「物体そのものを構成する物質の分量である質量(基本単位kg)」と、「質量と重力加速度の積に等しい重さ(重量)」とは異なることを決議した。日本からはの2名が出席している。この区別の説明が質量と重さ(重量)の区別を明瞭にする。世間が重さと言っているもののほとんどは質量である。重さは場所によって変わる。月へ行くと6分の1になってしまう。宇宙船の中では0である。その人には不変な固有の量がある。それが質量としての体重である。「体重」は質量概念である。このように述べるのは数学教育の高田彰氏である。国際度量衡総会の決議は岩田重雄氏の文章による。質量とは「物体そのものを構成する物質の分量である」そして「そのものがもっている不変な固有の量」という高田彰氏が表現する。計量研究所が編纂した計測辞書や計測用語辞典では上のように説明している。

 物体の重さとは、その物体が受ける重力の大きさを表し、重力が異なる場所ではその重さは異なる。しかしその物体の質量は同じである。これが質量だ。

 別の言葉で反復すると「質量は重さと混同される場合も多いが異なる概念である。物体の重さとは、その物体が受ける重力の大きさを表し、重力が異なる場所ではその重さは異なる。しかしその物体の質量は同じである」となる。

 重力質量と慣性質量と述べるからウィキペディアによる説明では質量の定義がわからなくなる

 ウィキペディアが質量の説明を次のようにやっているから質量を理解しようとこのページを開いても次のように書かれているからわからなくなってしまう。「物理学的には厳密には、動かし難さから定義される慣性質量 (inertial mass)と、万有引力による重さの度合いとして定義される重力質量 (gravitational mass)の 2 種類の定義があるが、現在の物理学では等価とされている。慣性質量と重力質量の等価性は、たとえば重力加速度が落下する物体によらず定まることから知ることができる。物体に働く重力は重力質量に比例するが、一方で重力加速度は重力を慣性質量で割ったものなので、重力質量と慣性質量は比例していることが分かる」

 1キログラム(1kg)は白金とイリジウムの合金の塊から物理量を元にして定義される方式に変えられる

 質量の単位はキログラム(kg)である。質量の単位のキログラムの定義が近く変わる。国際度量衡委員会がその準備をしている。質量の定義を変えるのではない。キログラムの定義を変えるのである。1キログラム(1kg)は白金とイリジウムの合金の塊から物理量を元にして定義される方式に変えられる。これによって長さ標準であったメートル原器ののち唯一残っていた現物による標準から脱却する。(2017年7月4日記載)


写真はキログラム原器を模したコンピュータ
グラフィック(ウッキペディアから転載)

日本の重力値の新基準とハカリによる質量測定(2017年7月4日記載)


質量と質量標準の資料など

普遍的な物理定数に基づく新しいキログラムの再定義に道を拓く (産総研
- アボガドロ定数の高精度化に成功 -
 光の波長の精密制御によるシリコン球体の形状のナノメートル計測技術を開発
 国際プロジェクトにより同位体濃縮シリコン結晶を作製、アボガドロ定数の高精度化に成功
 人工物ではなく普遍的な物理定数による「質量標準」の確立が現実的に
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)計測標準研究部門【研究部門長 三木 幸信】は、フランス、イタリア、オーストラリア、ドイツ、イギリス、アメリカ合衆国、欧州委員会の計量標準研究機関との国際研究協力(アボガドロ国際プロジェクト)により、アボガドロ定数の高精度化に成功した。
 アボガドロ定数は1 モル(mol)の物質に含まれる原子や分子などの数であり、物理学や化学の分野で用いられる重要な基礎物理定数の一つである。アボガドロ定数の高精度測定により、現在、国際キログラム原器という分銅で定義されている質量の単位を、原子一個あたりの質量に基づき再定義できる。アボガドロ国際プロジェクトではシリコン(ケイ素)の同位体の一つである28Siだけを濃縮した結晶を製作し、その密度、格子定数モル質量を測定して、X線結晶密度法によりアボガドロ定数を決定した。産総研では新たに開発した光の波長をチューニングするシステムを備えたレーザー干渉計により質量1 kgの28Si単結晶球体の形状を1ナノメートルの精度で測定し、その体積と密度を決定した。国際研究協力によって得られた格子定数およびモル質量の値と密度の値を組み合わせることで、アボガドロ定数をこれまでより一桁良い精度(3×10-8)で決定することに成功した。この結果は米国の科学論文誌(Physical Review Letters、2011年、106巻、030801頁)に発表されている。
 産総研などによるアボガドロ定数高精度化を受け、2011年10月に開催された国際度量衡総会において、国際キログラム原器を将来廃止し、基礎物理定数によるキログラムの再定義を実施する合意が得られた。近代度量衡の歴史で初めて、人工物に頼らない質量標準の確立が現実的なものとなっている。

正確な球体形状測定のためにシリコン球体温度を0.001 ℃より
良い精度で制御・計測するシステムを備えた真空チャンバ-。

質量標準研究グループ (産総研)グループリーダー 藤井賢一
研究テーマ
1、質量標準の供給
現在、質量の単位「キログラム」は国際度量衡局(BIPM)に保管されている「国際キログラム原器」の質量によって定義されています。この国際キログラム原器を基準として質量が測定された「日本国キログラム原器」が我が国の質量の国家標準です。日本国キログラム原器を基準として、国際整合性の確保された質量標準を産業・科学分野に供給しています。
2、キログラム定義改定のためのアボガドロ定数決定
「キログラム」は120年以上前に製作された世界で唯一の分銅「国際キログラム原器」の質量として定義されています。近年の質量測定技術の飛躍的な向上により、この「国際キログラム原器」の質量変動が顕著に観測されるようになり、その安定性が疑問視されています。そこで、分銅のような人工物に頼らずにキログラムを定義する新しい方法が世界各国で検討されています。質量標準研究グループでは、28Siのみを濃縮した特殊なシリコン単結晶を用いて「アボガドロ定数」を世界最高精度で測定し、普遍的な基礎物理定数によってキログラムを再定義するための研究を行っています。
3、新たなキログラムの定義に基づく微小質量測定技術の開発
2018年以降、「キログラム」は「国際キログラム原器」ではなく、「プランク定数」により定義される予定です。新たな定義を利用することで、特に創薬やインクジェット技術などの分野で必要とされるサブミリグラム領域での高精度質量測定が可能となります。これを実現するために、「電圧天びん」の研究開発を行ってています。
4、重力加速度絶対測定技術の確立
電磁気力による新しい質量標準の実現と力学系計測標準(力、圧力、トルク等)の設定のために重力加速度の精密測定を実施しています。また、海外の標準研究機関との国際比較に参加し、重力加速度測定の国際整合性を確認しています。

さらばキログラム原器 (日経サイエンス)

写真はキログラム原器
 原器という人工の物体に頼った「キログラム」の定義はもはや時代遅れだ。不変の自然定数に基づいて質量を高精度で定義し直す試みが進んでいる。過去100年以上にわたり,質量の基本単位はパリ郊外,国際度量衡局(BIPM)の小さな研究室に保管されている「国際キログラム原器」によって定義されてきた。白金とイリジウムの合金で精密に作られた円柱は高さと直径がともに39mmで,国際単位系(SI)によれば,この質量が「1キログラム」の定義だ。しかし,実際には国際原器そのものの質量が時とともに変動していることがわかっている。国際原器を同時期に作られた他の質量標準器と比較した相対変化や,質量に関連する基本定数の新旧の測定値を解析した結果から,過去100年間で50μg以上の増減があったとみられる。空気中の不純物が原器にくっついて蓄積したり,原器が摩滅したりといった原因が考えられる。(以下は「さらばキログラム原器 」(日経サイエンス)へ)
















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質量と重さ(重量)を混用してはならない(執筆 岩田重雄 元日本計量士学会会長)

(本稿は2007年に日本計量新報「計量計測データバンク」に寄稿されたものです)

質量(しつりょう)と重さ(重量)(おもさ、じゅうりょう)を混用してはならない。

気になる計量の言葉づかい「足せるものと足せないものがある」

日本の重力値の新基準とハカリによる質量測定(2017年7月4日記載)

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国土地理が日本の重力値の基準を40年ぶりに更新。国土地理院が2017年3月15日に公表
├国土地理が日本の重力値の基準を40年ぶりに更新2017年3月15日に公表 (「日本重力基準網2016(JGSN2016)」)

「重力を知る」 重力とは、重力の単位、地球の重力値、重力の役割

「2016重力値マップ」に計量計測機器はどのような対応をするか

計測自動制御学会2017年第1回力学量計測部会運営委員会

質量(しつりょう)と重さ(重量)(おもさ、じゅうりょう)を混用してはならない。

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質量と重さ(重量)を混用してはならない

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