野鳥歳時記 春編

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野鳥歳時記

ウグイス(2)

○ウグイスが 桜の開花を 宣言し   虚心



 
 3月16日、気象庁は東京の桜の開花を宣言しました。日本列島は観測史上一番早い桜の開花だそうです。3月17日にウグイスの初啼きを聞きました。家の裏の林から聞こえてきました。ウグイスを聞いたのは私だけです。こっそり啼いたのではないのですが、私以外にウグイスを聞く耳をもたないのです。
 解禁された道志川を覗きに行きました。ここでもウグイスが啼いていました。翌18日には相模湖駅前の林でウグイスを聞きました。17日は初夏を思わせる暖かい日となったので、バイクで野を散策しておりました。茶色のタテハ蝶をみつけたあとにモンシロチョウまで見ることができました。あまりにも心地よい暖かさに日陰の草むらで長い休憩をしてしまいました。
 1週間の間にウグイスのことで2度会話をしました。
 3月19日、神奈川県計量協会のSさんの歓送会の席上、Sさんにウグイスの初啼きを聞きました、といったら「私のところでは2月の末には聞いております。もう随分上手くなりましたよ」という返事に、向かいの席にいたKさんがウグイスは歌の訓練をするのですかと驚いていました。
 3月24日には公務員を早期退職して八ヶ岳山麓の小淵沢駅近くの別荘地帯で新しい暮らしを始める友人に柴犬の子犬を届けてきました。1日3kmの散歩を日課にして犬から健康をもらうのです。山野を散策するときのお供になるような上等の子犬を選って届けました。
 八ヶ岳には雪雲がかかり、小淵沢駅付近に雪がちらつきました。「昨日は暖かい日でウグイスが一日中啼いていたのよ」と話していました。庭の向こうの南面に甲斐駒ヶ岳がそびえ、北側の玄関からは八ヶ岳を望むことができる風光明媚な立地です。手持ちのデジタル表面温度計で日陰の気温を計ったら4℃でしたが、ウグイスは健気に啼いてくれました。
 中央道の甲府盆地では桜と梨が満開で、桃の花も咲き始めていました。
 ウグイスは存在感のある野鳥です。自己主張が強いということでしょうが、ウグイスの啼き声はなわばり宣言でもあるのです。
 家の隣の畑では2月初めからキジがなわばり宣言をしております。高尾山にハイキングをする人の数がうんと増えてきました。

 


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ツバメ(2)

○萌黄野の 青空に舞う ツバクラメ   虚心



 3月29日、気象庁前の内堀でツバメを見ました。翌日の30日には住まいのある高尾山麓でも見ることができました。31日には相模湖の発電所のところで見ました。ツバメがくるともう間違いなく春です。陽気に誘われて桜や萌黄の野山にカメラを向けました。
 事務所は気象庁近くの神田錦町3丁目にあり、皇居の内堀は野鳥観察のいいスポットです。3月29日には小雨に煙る堀の上空をツバメが飛んでいたのです。鴨たちの姿はまだあるのですが、ツバメの季節が到来しているのです。東京ではツバメを見ることが滅多にないのですが、皇居の堀のまわりにはツバメがいたのです。
 ツバメは7種類ありますが、関東地方ではツバメ、イワツバメ、コシアカツバメ、アマツバメの4種のようです。ここで扱っているのは一番よく見られる喉の赤いツバメです。イワツバメは山岳部に多く、山荘の軒下などに巣を掛けます。
 民家の軒下に巣を掛けるツバメは9月末頃に南に旅発つまでに1番巣、2番巣のあわせて2度ヒナを孵します。ある調査では2回で8〜7羽のヒナを育てることがわかりました。こんなにヒナを育てたらツバメが増えすぎる勘定になるのですが、そのようにはなっていません。渡りの途中その他で淘汰されているのでしょう。ツバメの故郷は日本です。日本には1県平均11万羽のツバメが渡来することになっております。5万5千組のつがいはあわせて47万8千5百羽の子を育てて、あわせて58万8千5百羽で南に渡るのです。
 ツバメは昆虫を飛びながら補食します。1羽で1日に少なくとも100尾を摂りますから、昆虫がそこそこ上空に舞っていなくてはツバメは暮らせないのです。ビルの乱立する都心部にはツバメはいませんが、皇居の堀の周りは特別な場所だったのです。このツバメたちはどこに巣を掛けるのでしょうか。
 空を見上げてください。ツバメが飛んでいるかも知れないのです。地上を見るのもいいですが、空を見上げてると人はゆったりするのです。そうすると人に道を尋ねられる機会も格段に増えます。

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アオジ

○新緑の 藪に逃げ込む アオジかな   虚心



 桃の花が咲くころには新緑が広がり、日本は5月の連休にはいると初夏の様相をみせます。半袖で日中を過ごせる時間が増える季節は自然そのものが活気に満ちあふれています。
 自然の働きと分離された生活をするようになった人間は、自然のなかに身を投げ出して自然のもつ営みを肌で感じることができなくなっております。ナチュラリストのソローは、自然こそが人間が本来もっている生きる喜びを与えてくれると考えました。新緑の季節になりますとソローの考えがわかるような気がします。
 近くで見るとなかなかの器量よしなのに目立たぬように生きている野鳥がおります。アオジです。黒っぽい頭に濃い緑色の背と黄色い腹部に茶の点々といったいでたちの、ホオジロ科の留鳥です。体長はホオジロより一回り小さくスズメほどですが、スズメよりは細身です。体色はオスがメスより鮮やかで、頭部にその違いが顕著です。新緑の季節になると独特の調子でさえずります。チョピ・チョピ・ピーチョロ・チー・チーといものですが、ある地方ではこのさえずりを「ジジー・ババー・死ね」と聞きなして、老人のいる家庭では飼ってはいけないことにしているといいます。
 私が好きなホオジロは明るい場所を好みますが、アオジはホオジロに比べると暗がりを好み、道ばたの明るいところに出ていても人の姿に気づくと藪陰に逃げ込んでしまいます。
 アオジは、私が散策路にしている山中湖の旭が丘付近に6月になると平地から多数登ってきて、チチッ・チチッとホオジロ科特有の地啼きで埋めてしまいます。繁殖は主に本州の中部以北と北海道で行われているということですが、関東地方でも繁殖が確認されています。神奈川県や山梨県でも少数ですが繁殖します。


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ヒバリ

○青空は ヒバリの声で 澄み渡り     虚心

  春も深まって山の緑が新緑から深緑色に移り変わるころに天空で、ピィーチク・パァーチクにぎやかに歌うのがヒバリです。山は落葉樹の新緑と杉や松などの常緑樹とが分離して見えるので立体感がうんと増します。半袖になりたいほどに陽気のいい晴れた日にはヒバリがよく似合います。ヒバリの声は初夏を楽しんでいるようです。

  家の周りの麦畑や桑畑の上空でヒバリがよく歌います。上空に舞い上がったヒバリは羽根を半開きにして小刻みに振るわせて静止して歌います。上空で歌うのは雄で、雌は畑に潜んでいるのです。餌は昆虫などです。ヒバリほど春を文句無しに象徴する野鳥はいないでしょうね。 

 ヒバリを探しに野を歩いているときトンボを3種ほど見かけました。 一つは川トンボのようなやつ、もう一つはギンヤンマを小型にしたようなやつ、さらにもっと小型のやつです。4月末から5月はじめにかけてのことです。

  野を歩きながらついつい川をのぞいてしまいます。家の近くの道志川まで足をのばしますとそこは立派な渓流です。すぐ近くを相模川支流の阿津川が流れていますが、5月になったら魚影が見えました。群れて泳いでいるのはアブラハヤでしたが、その横にヤマメがいました。20cmほどもある肥えたヤマメです。散歩のとき3度ほどその姿を見ましたが、連休後半に3日ほど家を空けていましたらヤマメは姿を消しました。

 阿津川は生活排水が流れ込むのでさほどきれいな川ではありませんが、それでもヤマメが棲んでいるのです。釣ってきたヤマメを放流しておこうかなと密かに考えていた川ですから、私はヤマメを見て小躍りする思いでした。

  三日間の日程で、東北は岩手県に出かけて閉伊川でヤマメとイワナの釣りを楽しみました。閉伊川の上流部は桜の花が満開でした。私の住む相模湖町と一月の季節のずれがあります。閉伊川は渓流釣りの天国といっていいですね。豊かな清流、きれいな姿の渓魚、それと釣り人の少なさですから、こたえられません。 

 野鳥といえば、閉伊川沿いの道にカケスが落ちていました。剥製にしたいほどの見事な姿態のカケスでしたので、東京(相模湖町)に持ち帰りました。ゆっくりスケッチをしたあとで埋葬しました。カケスはキジバトほどもある大きな体をしており、ジャー、ジャーと鳴きながら梢を渡っていきます。肩のところのルリ色が見事です。 

 東京に戻りますと岩手の寒さがよく分かります。5月に入って閉伊川の渓魚は活発に動き出しましたが、関東の川は6月1日に鮎釣りが解禁になります。静岡の興津川では5月20日にはもう鮎釣りが始まります。心はもう鮎釣りに飛んでしまいます。野鳥から鮎へと心は移るのです。

 
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ホオジロ

○ホオジロの 歌が広がる 春の朝    虚心

 ホオジロは里山の代表的な野鳥です。人の近づくのを察してヤブ陰からチチッと鳴いて飛び出します。比較的長い尾羽の両端にある白い帯が目立ちます。この尾羽の白がホオジロの象徴だと思います。頬の白さからその名前がありますが、これは捕まえたホオジロ間近に見て命名したものだと推察します。

  山にも人里にもいる野鳥のなかで人に媚びないで粛々(しゅくしゅく)と生きているのがホオジロです。その生き方に人間は学ぶものがあると思っています。春にも、夏にも、秋にも冬にもホオジロは人里で暮らしております。チチッ、チチッという鳴き声ですぐホオジロと分かります。野鳥を知らない人はホオジロと似たカシラダカとの区別 がつきません。雀とカラスしか判別できない人は多いです。 

 ホオジロは雀より少し大きく、姿は均整がとれていて私の一番好きな野鳥です。雄と雌では頬の白い模様が違い、何といっても雄の姿がいいですね。ケバクなく地味でなくその渋さといったらありません。チチッ、チチッというのが地鳴きですが、春になると新緑のてっぺんでくつろぎいだ姿でピチュピチュとさえずります。縄張りを主張しているのでしょうが、別 な野鳥が近づきますと一瞬身構えします。

 もう、春もたけなわです。タケノコを掘る時期でもあります。

  犬を散歩のお供に裏の畑の小道を歩いておりましたら、ツバメの飛翔するのを見ました。目の錯覚かなとも思いましたが、4月3日、相模湖駅の軒下にツバメが来ているのを確認しました。それから日が過ぎて今日は4月17日です。ツバメは産卵行動に入っております。私の家の軒下にも燕が巣をかけ始めました。

 雀などは一番雛が孵りました。他の野鳥も産卵を始めています。

  野に出てホオジロをみると私は安心します。ここには自然であるのだと。とは言いましてもホオジロが棲みやすい環境条件は落葉低木や芦原があることですので、この環境条件が無条件にいいということはできません。それでも都会にはホオジロは居ません。

  それでは春の野をを代表する鳥はなんでしょうか。ヒバリだと思います。私はこの鳥を今年はまだ見ていないのです。


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ヒヨドリ

○ヒヨドリは 花見の酒で おおはしゃぎ      虚心

 ヒヨドリは桜の花が満開になると花をついばんでビャービャーとおおはしゃぎです。春の里山で目立つ野鳥はヒヨドリ、ホオジロなどですが、ずうずうしさにかけてはヒヨドリという野鳥の右にでるものはないでしょう。あえていえばハシブトガラストカワラバトかな。ムクドリもヒヨドリに迫りますが身体が少し小さいのと道化た姿ですからヒヨドリには及びません。

  私の住む里山の桜は4月8日に満開でした。カメラを担いで津久井湖や相模川、道志川などを散策に出かけたのですが、ヒヨドリは5月下旬のポカポカ陽気に浮かれてビャービャーと満開の桜の枝を飛び回っていました。ヒヨドリの声は大きいので、桜にきている他の野鳥がかすんでしまいます。 

 道志川にも相模川にもカワセミがいます。道志川は相模川の支流ですが、枝分かれした上流部といった方が実体をよく表しています。道志川の上流部から津久井湖に注ぐ下流部までカワセミは生息しています。この日は道志川の満開の桜の木の下から1000mmの望遠レンズをカメラに付けたバードウオッチャーに出合いました。カワセミの定点観測をしている人ですが、クロカン四駆で河原に乗り入れて川遊びしているグループがいるためカワセミが姿を見せてくれないのだそうです。カワセミは夏が似合う野鳥ですがこの日、日中は半袖で用が足りるほどに気温が上昇しました。カワセミのことは別 の機会にふれたいと思います。

  ヒヨドリは何にでも手を出す野鳥です。柿の実はもちろんキャベツもついばみます。冬場に収穫しないで放置された畑のキャベツを見事に食べ尽くしてしまいます。ヒヨドリは冬場でも餌の心配の少ない野鳥といっていいでしょう。現代はこういう鳥がよく繁殖するのです。カワラバトやハシブトガラスなどがそうです。現代の人と鳥との関係は、人が排出する残飯や取り残しの果 樹、野菜が鳥を通じて成立している所もあるのです。野鳥の食物連鎖に現代人が無意識のうちに関わっているのです。カラスやハトが悪い奴らであるとは言いませんが、憎らしげな野鳥はヒヨドリも含めて人が育てているように思えてなりません。

 ヒヨドリは私の家の軒下に巣を掛けたツバメの雛を襲います。卵をねらう場合も産卵後中身が熟し始めてから襲うのです。カラスもツバメの敵になります。ツバメが人の手の届くようなところに巣を掛けるのは天敵対策のためでもあるのでしょう。


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コジュケイ

 ○コジュケイが 二羽いた跡に ハコベ萌え  虚心

  コジュケイは足下から急に飛び出して驚かせます。ときどきは道路に出ている姿をみますが、落ち着いて観察したことがありません。朝一番に飼い犬の糞尿を済ませるために立ち寄る林で、コジュケイがよく餌をついばんでいます。ここは、うらなりの野菜は収穫しても面 白くないので、次の苗を植えるときに根ごと引き抜いて捨ててしまう場所なのです。春先の餌の乏しいときにはコジュケイの格好の餌場になるのでしょう。 

 ツガイのコジュケイがここで私と飼い犬を毎朝迎えてくれるのです。ウヅラより一周りほど大きく、キジバトほどの身体をしたコジュケイは愛嬌者といえます。道路に出ていて人の前を何メートルも一緒に歩くときなど、タモ網で捕まえられると思えることもあります。鳴き声は「チョト コイ、チョット コイ」というものなのだそうですが、私はコイジュケイが鳴いている姿をみたことがないのです。

  コジュケイは日本にもともといた野鳥ではありません。中国が原産ですが大正年代に飼鳥が逃げて野生化したということです。その後は猟のために積極的に放鳥したのが居着いて、日本の在来種のような顔をするようになりました。ウヅラよりは華やぎのある体色であるものの、度ぎつさはないので日本の野にいても違和感はありません。

  この春のウグイスの初鳴きは3月21日でした。鳴き出すと遠慮がないのがウグイスです。毎日毎日、ホーホケキョの声が聞こえます。これは夏までつづきます。

 紋白蝶は3月22日に見ました。関東地方は春分の日を境に確実に暖かくなります。東京地方の桜の開花宣言は3月23日に出されました。

 暖かくなると縮こまっていた心も身体もノビをしなければなりませんが、人は必ずしも春だからといって心が浮きたつものではないようです。日照時間の延長が心模様に影響して気だるくなる人が少なくありません。狼はどうしたわけか満月の日に異常に興奮するのです。現在の科学の力は万能ではありません。観察を通 じて法則のようなものを見つけだしはしますが、その訳を説明をできないでいることが多いのです。

  動物たちは季節が冬から春に動くのにあわせて生命の活動を輝かせますが、人間の心は労働を通 じて年中均一であるように訓練されてきました。春や夏や季節の到来にあわせて浮かれ出すことはありませんが、祭りで浮かれてそれを調整してきたともいえるでしょう。 

 自然のなかで野鳥を観察するということは祭にも似た個人の行事ですが、それをしているからといって必ずしも心が晴れているということではありません。お天道様にも照る日曇る日があるように、心に雲がかかる日も少なくないのです。 

 晴れたらいいね、と思っても心の曇る日には無理をしないのです。曇る日は、一日とゆっくりと自分の心と向き合うのも人生を過ごすための方便であるように思われます。 

 
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カワラヒワ

○春の陽に 黄金に輝く カワラヒワ    虚心

 冬から春への季節の移行は日差しの変化として感じとることができます。

 眩しさを増した春の日差しによく似合うのがカワラヒワです。上空を飛翔するカワラヒワの風切り羽根は黄色の横一文字が鮮やかです。カワラヒワは高い梢で翼を震わせてコロコロと鳴きときどきジュイーンの音をいれます。このジュイーンという鳴き声はマヒワに良く似ています。カワラヒワはまた翼の肩部分と尾羽の元の部分の黄斑が目立ちますし、それとあわせて黄緑の体色であることから彩 りの冴えた野鳥です。コロコロという独特の鳴き声と彩り豊かな姿であるため野原でよく目立ちます。カワラヒワは雌雄同色ですが、さえずりなど鳴き声で見分けます。

  カワラヒワは留鳥です。河原の名が冠されていますが、野原や低山で生活しており、人をあまり恐れない陽気な野鳥です。ですから四季を通 じて里山で間近に見ることができます。

  3月18日朝、の散歩をしておりましたら一羽のカワラヒワが道端の草むらで死んでおりました。春が随分とすすんできて、これからにぎやかに繁殖の時期を迎えるというのに可哀相です。元気に飛びかっている野鳥はどのように死を迎えるのでしょうか。小鳥は一般 に食い貯めが効きませんので一日中餌を探して飛び回ります。少し体力が低下しますと生きていけません。草むらのカワラヒワは綺麗な羽根をしておりました。鷹などに襲われた痕跡はありません。私はそのカワラヒワをスケッチして葬りました。 

 長野県小布施町の豪商高井鴻山の記念館を訪ねたときに葛飾北斎の野鳥のスケッチを見ました。スケッチには死んだ鳥もありました。遠くの動いている鳥はすみずみまで観察しにくいものです。絵師は仕事をするのにモノをよく観察するのだと思いました。

  梅の花が咲き誇る野辺の高い梢で翼を震わせてコロコロ、ジュイーンと鳴くカワラヒワは、春を梅から桜へと季節をつなぐ使者だと思いました。(横田俊英、日本野鳥の会会員)


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山鳩(別名はキジバト)

○山鳩が 陽炎(かげろう)を盾に 見合いする     虚心  

 3月12日朝、耕運機を入れた畑に10羽ほどの山鳩が群れていました。この日、住まいのある相模湖町では雪がちらつきました。通 勤電車が新宿駅を通過する頃、乗客の「雪だ」と話す少し興奮した声が耳に届きました。

 鶯(うぐいす)の初鳴きは未だです。3月15日に聞いた年もあるのですが今年はどうでしょうか。この冬はよく雪が降りました。家の周囲の日陰には1月末の28センチ(メートル)もの降雪のなごりがあります。山鳩がペアを組むのはもう少し先なのでしょう。これが群れている山鳩の今シーズンの見納めになるのかな。うららかな春の野辺の山鳩の鳴き声に思いがとびます。また、むせ返る緑の山中の山鳩の姿が目に浮かびます。夏が恋しいのです。

 昨年の夏の暑さをもう忘れて、夏が恋しくなっているのです。

 山鳩はキジバトともいいます。山鳩の鳴き声はどんなでしょうか。日本人の耳には「デデポッポ」と聞こえるのです。幼児には「ポッポッポ(鳩)ポッポ」と聞こえるようです。

 梅の花は今が盛りです。沈丁花もいい匂いを放ち始めました。1週間もすると桜前線のニュースがテレビでかしましくなるでしょう。この時期は冬鳥との別 れの時でもあります。冬鳥は人の近づくのをはやくから知っていて、間近になるとヤブの中に姿を隠します。凍てつく季節を慰めてくれた冬鳥たちに「ありがとう」の言葉を贈りたいのです。もちろん留鳥たちは人里にうんと近寄ってきて十分にいやしてくれていますが、やはり渡りを控えた冬鳥たちに感謝をしたいのです。

 私たちの小さな畑に前日、馬鈴薯を植えました。ポカポカ陽気に妻が浮かれてしまったのです。

 日本野鳥の会が高尾山で探鳥会をしますとドバトが一番に多い鳥としてカウントされます。ハシブトガラスが三位 です。山鳩(キジバト)は十位です。季節によりこの間に様々な野鳥が出入りしますが、ヒヨドリ、メジロ、スズメのほか、カラの仲間が常時名を連ねます。ドバトが山に進出して、山の鳥だったはずの山鳩が里山からさらに都市部に降りてきています。山で探鳥をしてドバトを見なければならないのは、人生が意に反したことばかりであるのと重ね合わせて考えれます。

 日本中にまんえんしたドバト(カワラバト、伝書鳩のこと)は糞害をもたらすので閉口します。山鳩は畑に植えた種子を幾分かほじくるとはいいましても、それに増して小鳥たちは病害虫を駆除してくれますからみな畑の守り神です。山鳩がいる風景はのどかさの証明みたいなものですから、それだけでも十分に役目を果 たしているといえるでしょう。この山鳩も空気銃の規制がなされるまでは種の存亡の危機に瀕したこともあるのです。アメリカでは旅行鳩が狩猟によって絶滅してしまったのです。

 のどかさや山里を象徴するものとして山鳩が日本の歌謡曲に歌い込まれています。山鳩を歌詞に折り込んだヒット曲を探してください。


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キジ  

○雉鳥(キジドリ)の 鎧(よろい)見事な 春の野辺   虚心

庭先に広がる畑の中のキジ
 キジは日本の国鳥に指定されています。
 幾つかの県の県鳥にも指定されており、里山でよく見かけることができます。
 この鳥はヤマドリ等とともに狩猟の対象にされています。猪狩りなどは勇壮なものですが、鳥を対象とした狩猟はまた別 の趣をもっています。キジの羽根を間近に見るとその美しさに驚愕し、絶句します。
  家の脇の畑で「ケンケン」と声がするので、振り向くとキジの姿がありました。

 周辺を二輪車を使って散策するとキジの声が幾つも聞こえてきました。高尾山の南稜が伸びる相模湖のこの界隈にはキジが相当数生息していることが分かりました。

 「それほどに自然が豊かなのだろうか」と気持ち引っ掛かるものがあったのですが、この原因が判明しました。隣接の畑の所有者の七十五歳になるEさんとキジのことを話していたら相模湖ピクニックランドで飼育していた二十つがいほどのキジを放したのがそのまま野生化して繁殖しているのだといいます。もっともキジは自然といっても人が農耕生活を営む里山に生息するのですから何処にいても何の不思議もありません。

 春になるとキジの活動が活発になって、裏の空き地に終日出没し、不意に足元から飛び立って驚かせます。ケンケンという声は雄が発するもので、声のするあたりに必ず雌がいます。雌は雄と違って極めて地味な姿をしています。

 さきほどのEさんの話の続きです。
 栗林の下草を除草機でバリバリと刈っているとバッシィという音とともにキジを刈ることがあるといいます。胞卵したキジは除草機の迫るのにもたじろがずに巣を守るのだといいます。四月になるとキジは巣作りに入ります。

 つがいで行動しているキジの雄は、遠くで別のキジがケンケン鳴くとそれに対抗して胸を反せてケンケンと威勢よく鳴きます。
  そんな様子をみていて考えました。
 「キジも鳴かずば打たれまい」といいますが、鳴かずにいられないのがキジなのであろうと推察します。

 
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ツバメ  

○ツバメさん 花恋しさに 舞い戻る   虚心



 春告鳥は沢山ありますが、ツバメもそうした鳥の一つでしょうか。

 東京も相模湖も今年は四月四日の土曜日には桜の花は満開になりました。
 相模湖の桜は街の観光協会が宣伝している「名物」です。その桜の花を撮ろうとカメラを担いで相模湖駅に出かけましたらツバメが駅舎の周りを飛んでいました。街中の古い商家の開けっ放しの店先にも一組のつがいがいました。梁に掛けられた巣は去年のものでした。今年の巣はこれから造るのでしょう。

 「ツバメが来る家は幸福な家だ」といいます。私の家にはいまだかってツバメが巣を掛けたことはありません。

 日曜日に夕暮れの裏山を眺めていましたらツバメが飛ぶのを目撃しました。夜遅くまで雨戸を締めずにいましたら蛾が窓ガラスに来て羽根を震わせていました。昼に窓を開けて外出しましたら虫が家に入っていました。モンシロチョウの飛ぶのも見ました。間違いなくツバメが活動する季節になったのです。

 そういえば普段はビャービャーと騒がしいヒヨドリがまだまる裸の栗の木にとまって一日中ピィーチョロリチョロリと歌っていました。

オオバン(大鷭)(12月)

コブハクチョウ(12月)(コブハクチョウの姿態のいろいろ。バレーの白鳥の湖の様子を思い浮かべる)

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ウソ

○鷽(うそ)鳥も 桜の開花に 小躍りし   虚心



 桜の花が咲きました。
 それまでの枯れ野原も桜の開花とともに一気に活気付くのは不思議にも思えます。

  桜の花とともに、野の鳥のさえづりが始まります。冬鳥は少しずつ場所を明け渡しやがて夏鳥が目立ち始めますが、桜の頃はそこまではいきません。

 桜の開花ととに、裏の藪の中のウグイスは「ホーホケキョ」をはっきりと発声します。早朝から夕暮れまで時はいといません。

 ヒバリの声も聞こえてきます。ウグイスの向こうを張るように天空でピイチクパーチクよく歌います。間違いなく春がやってきたのです。

 相模湖の沿道でベニマシコが藪に逃げ込むのを見ました。この鳥は人をあまり恐れません。関東では冬場の鳥で、夏には北海道などへ移動します。ベニマシコは胸、腰、嘴のまわりの紅の濃さが個体によって異なります。その濃淡の度合いを観測するのは楽しいことの一つです。藪に消えるベニマシコの後ろ姿を追いかけながら、これがこの鳥の今シーズンの見納めかと想いました。

 ウグイスやヒバリの声に聞き耳をたてていましたら、裏の林でカラスがカァー、カァーという大きな声をたてます。この声は邪魔ですね。

 家の脇の畑に耕運機がはいりました。畑の主のEさんは、種を植えた畝(うね)にカラス除けの小枝を丁寧に刺し込んでいます。

 桜の花のことでした。

 桜の花を啄む小鳥は多いですね。私のウソに関する記憶は桜の花と対になっています。ベニマシコと同じアトリ科のこの鳥は鷹揚に体を動かしながら、ヒー・フー・ヒーと鳴きます。イカルやシメと同じような鳥ではありますが、それよりも小振りであり、良くみかけることができます。


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ウグイス  

○鶯の 初鳴き響く 梅林    虚心  



 三月十五日の日曜日、家で朝風呂に浸かっていると「ホーホケキョ」とウグイスの鳴き声が聞こえてきました。私の一九九八年ウグイスの初音聞きでした。

 ウグイスの鳴き声の前に何やら貴重な鳥の声がしていましたので、風呂の窓を少し開けておきました。鳥の声は雀(スズメ)しか知らない妻も鶯(ウグイス)の声は分かるようです。「ホーホケキョ」と数回鳴いた後は静かになってしまいました。

 春が来たのだと決めてよいでしょう。

 この日は山梨県の河川の渓流魚の解禁の日です。私は釣具と仕掛けの準備が整わないのと来客等雑事があることでこの日は釣りに出かけるのを断念したのです。出かければ三十センチの岩魚は間違いなし、山女魚のこれ以上のサイズの可能性のある釣り場を知っているので、この日の雑事が恨まれるのです。

 ウグイスの初鳴きの時期が東京近郷の場合は何時ごろが普通なのか知りません。私にはウグイスの大きな思いでが二つあります。一つは六月一日の鮎の解禁の日に川の向こうの小山から一日中ウグイスの鳴き声が聞こえていたことです。のどかな川の流れの茨城県の御前山町を流れる那珂川のことでした。

 二つ目は真夏の上高地でのことです。
 ここのウグイスは人を恐れず、散策路で三メートル前を人が行き来していても平気でホーホケキョと何度も何度も鳴いているのです。上高地の梓川には岩魚がいっぱいいて人を恐れません。取って食われないと知っていると鳥も魚も人を恐れなくなるのです。

 東京近郷という抽象的な表現では鶯(ウグイス)初鳴きの報告は意味を半減させますので、住まいの所在地を述べます。神奈川県津久井郡相模湖町です。JR中央線で八王子、西八王子、高尾につづく相模湖駅が最寄り駅です。住まいは東京の野鳥の宝庫である高尾山の山稜が張り出した所にありますから、裏山は高尾山です。野鳥の巣作りの場所そのものの自然といえます。住まいの向こうの林につづいて湖があります。ウグイスが好む藪(やぶ)もありますから、ここに棲んでいるのでしょう。

(横田俊英、日本野鳥の会会員)

オオバン(大鷭)(12月)

コブハクチョウ(12月)(コブハクチョウの姿態のいろいろ。バレーの白鳥の湖の様子を思い浮かべる)

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