野鳥歳時記 秋編 |
ジョウビタキ
野分けきて ジョウビタキの 姿見ゆ 虚心
野鳥にはそれぞれに独特の飛び方や仕草があります。夏鳥と留鳥の飛び方は目に焼き付いていますから、秋が深まるにつれて挙動不審の野鳥を目が自然に探るのです。10月30日、朝の散歩のおりにジョウビタキの姿を確認しました。牛の飼料に植えてあるトウモロコシ畑で見慣れない飛び方をする野鳥が目にはいりました。まだ緑青々としているトウモロコシ畑を、ジョウビタキがその白い斑が印象的な羽を朝陽に輝かせて飛翔していました。
この冬一番に目にした渡り鳥がジョウビタキでした。ジョウビタキは私の家のアルミフェンスと物干竿に留まって頭をぴょこりと下げてあいさつします。頭ぴょこりの後には開くと濃い蜜柑色の尾羽を独特な調子でぱっぱと広げながら上下に振ります。こうした動作を繰り返しながら私の庭と辺りの梢や林を行き来しております。これが春までつづくのですから有り難い冬の友です。
ジョウビタキは雄の羽の色合いが綺麗な野鳥です。大雨覆(おおあまおおい)羽が白く、腹は濃い蜜柑色、喉が黒で、頭は灰色です。雌の喉は黒くなく、頭の灰色もありません。腹部の蜜柑色はずっと淡くなっていますが、大雨覆羽の白は目立ちます。また雄雌とも尾羽は閉じている姿を後ろから見ると黒ですが、調子をとってぱっぱと開くときに濃い蜜柑色が印象的です。
雨覆羽に白い斑をもつヒタキ科のキビタキやノビタキは夏鳥ですから、これらとジョウビタキは入れ違いに日本列島にやってくるのです。
ツバメがいなくなったのに気づいたのは10月初めのことです。相模湖駅の軒下や駅の近くのパン屋の名物になっていたツバメが知らぬ 間に姿を消していました。ツバメがいればまだ渡りはしていないのですが、渡るといなくなるのです。この変化は劇的に起こっているのですが、人はそれに気づきません。
朝晩の気温が下がりますと、日の出のころには窓は開いていません。ですから小鳥の声が耳に届きにくくなります。10月中旬のある日、日の出の少し前に戸外に出ましたら小鳥たちがにぎやかに歌っておりました。その声は夏までの間と同じかといいますとやはりどこか違います。カラの仲間の声が一番大きく、アカハラもまだ頑張っています。ホオジロの声も聞こえますが、ウグイスはさえずりを止めてしまいました。朝のシンフォニーに冬鳥や山から降りてきた留鳥が混じるのを気にするようになりました。自然への聞き耳といったらいいでしょうか。
秋は夕焼けの美しい季節です。というより感傷的になる季節でもあります。八王子の奥の陣馬山に近い恩方は、唱歌「赤とんぼ」の作詞の舞台になった里です。その赤トンボはとっくに山から下ってきて、刈り取られた田圃で虚ろです。また、蛙の泣き声が虫の音に変わっています。
とりとめなく過ごした日曜の夕暮れに、赤く色づいた空を幾組かカラスが山に向かって飛んでいくのを見ました。高尾山や陣馬山の方面 に向かって飛んでいくのです。カラスは街からも帰ってきます。この日一日街で悪さを働いてきたのでしょうか。下流の相模川の高田橋の上下流は休日にはバーベキューをする人が多いものですから、そのおこぼれを狙って夕方にはトビが上空に飛来します。カラスは当然のようにたむろします。
カラスは私の家の周りにいる鳥の代表格でもあります。電線に留まり、木の上でもゆうゆうとしております。私たちが目にするのはハシブトガラスの方がおおいのです。日本野鳥の会の8月例会では多摩川での探鳥会ではハシブトガラス3羽、ハシボソガラス15羽、高尾山ではハシブトガラス20羽、ハシボソガラス5羽、谷津干潟ではハシブトガラス2羽、ハシボソガラス1羽でした。その他の地域ではハシブトガラスのみが観察されています。東京湾では30羽、三番瀬では1羽、多磨霊園では30羽、新浜では10羽、清澄庭園では30羽、明治神宮では30羽、葛西臨海公園では10羽でした。ハシブトガラスは都市部でゴミ箱を激しく漁るようになりました。この対策に税金が使われるのですから、税食鳥(ぜいくいどり)です。
ハシブトガラスは高山にも都市部にも棲みます。おでこの毛が盛り上がり、くちばしの端まで太いのがハシブトガラスです。ハシボソガラスはくちばしがカラの仲間のようにスッと素直に伸びています。そうはいいますが見慣れないと区別 はつきません。カー・カーと澄んだ啼き声をするのがハシブトガラスで、ガー・ガーと濁るのがハシボソガラスで、なおかつ身体が大きいのがハシブトガラスだということになると、声は姿とは逆ですから混乱が生じてしまいます。ハシブトガラスもハシボソガラスも留鳥ですが、冬鳥としてくちばしの付け根が白っぽいミヤマガラスや体が大きく喉の毛を立てていることが多いワタリガラスがいます。
夕焼けにカラスは風情があったものですが、現代ではカラスとカワラバトは害鳥にされてしまいました。
雁(がん)の雛を飼育するなかで、すり込み現象を発見したノーベル賞の動物行動学者であるオーストリア生まれのコンラート・ローレンツ氏は「家の中を楽しく生き生きとしたいのなら、小鳥を一つがい飼うのがよい」と述べ、つづいて「もし君が孤独な人間で、住まいの中に誰かがいて帰りを待っていて欲しく、そのものと心かよう接触をしたいと望むのなら、犬を飼いたまえ」と述べています。この後でローレンツは人と馴染む鳥の名前をあげています。
日本の季節によく符合した野鳥を取り上げようとしているのが本稿ですが、秋の野鳥を探しに野に出ますと目につくのはすでに取り上げたものばかりです。道志川が津久井湖に注ぐ付近では鮎釣りの人々がいなくなりましたらカワセミが姿を見せるようになりました。魚道の護岸に留まっていたカワセミは浅瀬に飛び込んで小さな魚をくわえました。このカワセミに気付いたのは私だけです。家の前の電線にモズがしきりに姿を見せるようになりました。秋の間違いない到来を宣告しているように思えます。
お定まりの行動のようですが、標高1897mの大菩薩峠に出かけてきました。頂上の大菩薩嶺は2057mですが、介山荘のある峠で一服して帰るのです。
介山荘にはヒガラが餌付けされたかのようによく現れて、登山者に挨拶します。ヒガラは数羽から10羽ほどで行動しており、山小屋の主人は登山者の質問に「あれはヒガラです」と誇らしげに答えています。ヒガラはシジュウカラ、コガラとあわせて「3羽ガラ」を構成します。このカラ仲間を見分け、区別 できるようになるためには経験がいります。
ヒガラはスズメよりずっと小さくコガラよりも小さな身体で体長11ほどですが、日本の自然によく調和している野鳥であると思います。背は灰色、頭と喉は黒で、後頭部には冠羽があり、また白い毛が刺します。ちょっと見た目にはシジュウカラと間違えますが、見慣れてくるとその小ささが分かりますし、体重も身のこなしも軽い鳥だとも思えるようになります。カラの仲間は留鳥ですから年中見ることができますが、コガラは暑さが去って木の葉が色づきだしてから見ると、人間にはしみじみとした想いを抱かせるものです。それはシジュウカラのようにな華やかさはないものの、ツー・ピー、ツー・ピーと単純になく、その声はまた哀愁にも満ちております。ヒガラの声を人はツピン・ツピンであるともいいます。ツッ・チィー、ツッ・チィーが地啼きです。雌雄同色です。
落葉したカラ松の林で聞くヒガラなどカラの仲間の啼き声は秋の風情でもあります。
野鳥を探しに野に出るのですが、10月初旬の山里や低山は夏の鳥と冬の鳥の交代期にあたるのでしょうか、空振りがつづきます。その季節にふさわしいこれはという野鳥を見つけると嬉しくなるのですがね。
ヤマガラは留鳥ですから何時の季節の野鳥と言い切ることはできないのですが、夏の鳥ではなく冬の鳥でもないでしょうから、春と秋の野鳥ということになります。春にふさわしい野鳥は多いですから、私はヤマガラを秋の野鳥にすることに決めました。
日本野鳥の会東京支部の7月の例会で観察されたヤマガラですが、高尾山では探鳥会が2度行われて参加者は41名、32名で、それぞれ3羽、5羽でした。明治神宮での探鳥会には32名が参加してヤマガラ8羽が確認されました。シジュウカラは順に5羽、3羽、15羽でした。私の住む里山ではヤマガラの姿よりもシジュウカラを見かけることが圧倒的に多いのです。
シジュウカラと同じくらいの大きさのヤマガラは、シジュウカラを茶色にした野鳥と言えばいいでしょうか。灰色の背、黒い頭、茶色のほほ、茶色の胸という色彩 で雌雄同色です。日本人には籠で飼う鳥として親しまれてきました。それで縦に長いヤマガラ籠ができたのです。おみくじを引かせたりの芸達者な野鳥です。啼き声はツツピーン・ツツピーン・ツツピーンというものですが、このツツピーンを何回連続するかでヤマガラの啼き声を競わせていた地方もあります。ヤマガラは朝鮮半島にも棲んでいます。
ヤマガラには三宅島などに棲むオーストンヤマガラがあります。南に棲む亜種は、南下するほど色が濃くなるか黒みがちになるという傾向があり、オーストンヤマガラはヤマガラを赤い眼鏡で見ているような体色をしております。
柿の実が色付き始めましたから、落ち葉の季節はもうすぐです。暑さが去って山での行動が楽になってきていますから、カラ松の林に散策に出てはいかがでしょうか。
9月25日の朝、家の前の電線でモズがキイ、キリキリ、ギィ、ジィと啼きました。これは秋の風物詩の代表ともなるモズです。桜の花の終わるころに、小さな植木の新緑の枝先からアカモズが地面 に何度も飛び降りて餌をついばむ姿をカメラで追って楽しんでいたのが、昨日のことのようです。
アカモズは夏鳥ですから、秋になると渡りをします。対してモズは留鳥ですが、暑い季節には山里ではあまり見かけることがありません。留鳥のモズの体色は、背部から尾にかけて灰色が目立ちますが、これは雄で雌はここが茶褐色です。腹部は雄雌ともに薄茶色です。アカモズの場合にはこの腹部が白く、頭部から背にかけて赤みが強いので見分けがつきます。とはいってもモズのことをつねづね考えているような野鳥好きの人でないと、瞬時には見分けはつかないかも知れません。アカモズは雌雄同色ですので、春から夏にかけてつがいのアカモズを見ていてもどちらが雄でどちらが雌か、普通 の人には分からないでしょう。
モズの初啼きをきくと、秋が来たなと思わずにはいられないのですが、これは私にはあまり気持ちがいいことではありません。鮎釣りや渓流の遊びをもう少ししていたいのですから、モズに秋を告げられると悲しくなってしまうのです。
モズが啼いたその日、栗は最盛期で、栗畑の実を拾うお婆さんは忙しい日がつづきます。この季節、柿の実は青々としておりますし、木々の色付きも未だです。何かの弾みで夏日がぶり返しますから、私はうれしくなることもあるのです。
しかし、夏鳥の声と姿がめっきりと少なくなりました。9月の秋分の日の休日に野鳥を探していますと、スズメがやたらに目立つのでがっかりします。
○モズの声 秋晴れの野を 凍らせる(読み人知らず)
野鳥歳時記
シジュウカラ
住まいの付近の農家の庭や土手が綺麗に刈り込まれ、そこに彼岸花の赤い花弁が見事です。キンモクセイの甘い香りが漂い秋を知らせます。朝、犬を連れての散では、このところめぼしい野鳥に出会いません。季節は秋へ移行中であり、真夏日の中に涼気が混じります。
声をひそめてしまった野鳥たちですが、こんななかで目に付くシジュウカラやヒガラやカワラヒワは、山里は自分達の棲みかだと主張しているようです。
私は秋の気配を感じてから、殊勝にも2週つづけて、都合3日間も鳥見に出かけました。フィールドスコープと双眼鏡を抱えての行動ですから気合が入っています。
一つは山梨県大和村から上る大菩薩峠の登山コースでした。午前11時、小雨の中の登山開始でヒガラ、シジュウカラ、コガラの3種類の野鳥が姿を見せただけです。ふもとに降りてきてから、穂を出しかけたススキの原でホオジロが挨拶してくれました。
二つは神奈川県と東京の境界にある陣馬山です。登山開始が午後4時でしたが、頂上から東京が見えました。ここではシジュウカラとヒガラが丁寧に挨拶してくれました。
三つは山梨県清里に出かけました。清泉寮付近を散策したのは午後1時ごろでしたがシジュウカラとハシブトガラスが印象に残りました。八ヶ岳山麓でゆっくり探鳥する計画でしたが、急用ができてほとんど用を足さずに帰途に着きました。 探鳥は小鳥たちが朝一斉に鳴き出すときがよいのです。避暑地の富士五湖や軽井沢などで朝を迎えましたら、早朝の散歩をお勧めします。田園や山麓で野鳥を友にすることはこの上ない仕合せなことなのです。人間は仕合せは感じにくいものであり、不幸だけは強く意識されるもののようです。犬が人のよき友であることは誰もが認めることですが、野鳥がそうでないということを証明するものはありません。
駿河台の仕事場の周囲の街路樹や保険会社の庭には、目白とシジュウカラがよく姿を見せます。皇居や湯島の聖堂の杜を棲みかにしていて、遊びに出てくるのでしょう。
シジュウカラは留鳥ですからどの季節でも黒い頭にネクタイ、そして薄緑と青の混じった日本画の題材になる美しい姿態を見せてくれます。シジュウカラはスズメより大きく感じる人もいるようですが、私には小さく見えます。体長としては14・5cmでスズメと同じ大きさです。私は鳥の大きさを見るとき体重を考えております。カラの仲間にはヤマガラ、エナガがいて大きくは5種ですが、私はシジュウカラ、コガラ、ヒガラの3種を「3羽カラ(ス)」と決めているのです。「3羽カラ(ス)」は大きい順にシジュウカラ、コガラ、ヒガラということになります。
野鳥観察は、カラの仲間の3種の姿と鳴き声が聞き分けられると俄然楽しくなるものです。シジュウカラの鳴き声はツーピィー・ツーピィー・ツツピィーそしてグジュ・グジュと私には聞こえます。
オオバン(大鷭)(12月)
コブハクチョウ(12月)(コブハクチョウの姿態のいろいろ。バレーの白鳥の湖の様子を思い浮かべる)
野鳥歳時記
横田俊英( 日本野鳥の会会員)