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夏が頑張っていると秋が怖じ気づきます。
勝沼、塩山は甲州市に名前を変えており、この地の沿道のブドウ農園でときどきブドウなどを求めております。この年は10月31日になっても里から見える山には紅葉はありませんし、いつもは紅葉になるブドウ畑は青いままです。そのようなことですからブドウの出来はあまり良くなく、黒くなすはずのブドウの皮が赤いままであったりしており、また熟すると柔らかくなる実も硬いのです。
山間部の道路に分け入って秋の紅葉を満喫しようというのがこの日の目的であり、持ち出した車は軽4駆のスズキ・ジムニーです。このスズキ・ジムニーは2台目で、同じ車種を乗り継いでおります。今どき軽自動車であっても3気筒エンジンのこの車にはターボが付いていてメーカー自主規制いっぱいの64馬力を出しております。運転席の座席はレカロというのに付け替えていて、これは純正で着いていたものに比べると長時間乗車でも疲労が少なくて済むのです。
2週間前には甲府市湯村の宿から八ヶ岳方面に佐久地方から向かって走り、北八ヶ岳を横断する道路の麦草峠で思わぬ紅葉に感動したので、それならば奥秩父を北に見ながら走る甲府市の奥の北部山岳道路のクリスタルラインは素晴らしいだろうと出かけたのです。
この道は旧牧丘村から須玉町の増富に出てそこから信州峠を越えるて川上村にでます。川上村からは右に回って国師ケ岳のそばの大弛峠を通ると元の振り出しに戻ることができるのです。この日は大弛峠が通行止めだったのでこのルートは止めて木賊峠を左に折れて昇仙峡を見ながら甲府市に下ることにしたのです。
北部山岳道路のクリスタルラインの東側に入り口の乙女高原では10年以上もの長いことダム工事をしていて、この日はそのダムに水が溜められておりました。ついに完成したかと妙な気分になりました。ダムに寄り添うように民営の温泉が建物を新装して営業しておりました。
ダムの温泉から先は別世界です。道はルートのすべてでアスファルト舗装されていても対向車があるとすれ違いに苦労する細さです。また崖からの落石も所々にあるので軽4駆は好都合です。
細い山道は黄葉、紅葉のトンネルになっており、唐松は高度を上げるほどにすっかり薄茶色に変わっていて右手の奥の金峰山の白い岩だらけの景色と好対照です。この付近は花崗岩の岩山が多く、先に進むと花崗岩の奇岩の塊である瑞牆山が異様を顕します。昇仙峡も花崗岩を荒川が削ってできた峡谷でした。クリスタルラインでは幾つかの花崗岩の岩山が盛り上がっており、白い岩肌とそこにへばりついて生えている樹木の紅葉がコントラストをなして目を楽しませます。
山岳道路を包む森には野鳥が沢山棲んでおります。
夏が遅くまで頑張っていたので秋が躊躇したのでしょう。10月31日のこの日車から確認できた野鳥は留鳥のカケスとキジバトだけでした。ほかにカラの仲間がいたような気はしますが、冬鳥は見ることができませんでした。
この山岳道路は奥秩父の原生林を走っているのです。森林限界ぎりぎりのところに通された道路ですから、高山でしたか見ることができない樹木や草花を間近に見ることができます。この道は日本でももっとも山深いところに細々と付けられた自動車道路です。ひっそりとゆっくりと自然をいたわるように走らなければなりません。12月10日は閉鎖され、翌春にならないと開きません。北八ヶ岳の麦草峠も同じように冬期閉鎖されます。しかし霧ヶ峰の高原道路はスキー場への交通確保のために冬期も通行可能です。
日本の国土の70%から80%は森林です。その森林は安い外材のため木材が市場価値を持たないので手入れがされません。木を植えるのが環境保全につながるという風潮がありますが、木を植えるのとあわせて山と樹木に手を入れて管理しなくてはならないのです。よく観察すると日本の山と木は荒れるにまかされているのです。山と森林と山里と人の生活の共生という関係は壊されております。
私にはそのような状態に対してなすべき術がありません。せいぜい良く見つめること、じっと見ていることだけです。しかしそうした自然のなかに身をおくことは大きな安らぎをもたらします。私には軽4駆でテクテク出かける小さな旅は何よりの楽しみです。
(書き殴って読み返しておりません。誤字、表現の不適切さなどについてはご容赦を)