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計量計測データバンク ニュースの窓-473-
雪の上の卵だけを数えていた
-「現象と結果の取り違え」が生んだ自然のロマン-
「カマキリの雪予想」は間違いであった

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計量計測データバンク ニュースの窓-473-
雪の上の卵だけを数えていた-「現象と結果の取り違え」が生んだ自然のロマン-
「カマキリの雪予想」は間違いであった


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雪をかぶったカマキリの卵(卵嚢(らんのう))


雪をかぶったカマキリの卵(卵嚢(らんのう))


雪をかぶったカマキリの卵(卵嚢(らんのう))

雪の上の卵だけを数えていた-「現象と結果の取り違え」が生んだ自然のロマン-「カマキリの雪予想」は間違いであった


カマキリの雪予想はなぜ間違っているのか
--「現象と結果の取り違え」が生んだ自然のロマン--
文:横田俊英(2026年9月30日)


カマキリの雪予想はなぜ間違っているのか--「現象と結果の取り違え」が生んだ自然のロマン--文:横田俊英(2026年9月30日)

1. はじめに:広く知られる「カマキリの雪予報」

 「カマキリが卵を産む高さで、その冬の降雪量(積雪量)がわかる」という話を耳にしたことはないだろうか。これは一般に「カマキリの雪予報」として非常に有名な説である。

 この説は1980年代後半、新潟県の豪雪地帯で独自に観察を行っていた酒井与喜夫氏が著書を出版し、それがメディアで大きく取り上げられたことがきっかけで広まった。「カマキリは卵(卵嚢(らんのう))が雪に埋もれて死ぬのを避けるため、積雪線より上に産卵する」という考えは、自然の神秘や生き物の知恵として社会に広く知られるようになった。

 しかし、現代の生物学や気象学の調査・検証においては、この説に科学的根拠はないと完全に否定されている。

2. 科学が明かす「雪予想」の嘘

 弘前大学名誉教授の安藤喜一博士は、定年退職後17年にわたるカマキリ研究の成果をまとめた著書『カマキリに学ぶ』(2021年出版)において、実証的な実験や野外調査を通じ、この説の間違いを指摘した。

 カマキリの産卵高度と積雪量の関係性が科学的に否定される理由は、大きく分けて以下の3点に整理できる。

a、産卵高度はバラバラであり、相関関係はない:

 研究者や昆虫愛好家が調査したところ、同じ年・同じ場所であっても、産卵高度は地上数センチの低い場所から2メートル以上の高い場所まで、個体によってバラバラであることが確認されている。カマキリの卵が積雪よりも高い場所に位置するという傾向はなく、実際には産卵する草丈や樹高と相関しているに過ぎない。また、長年にわたる生物観測データと気象庁の積雪データを照合した結果、「カマキリの産卵高度」と「その冬の最深積雪量」には統計的な相関関係が見られないことが実証されている。

b、雪に埋もれても卵は死なない:

 カマキリの卵嚢(らんのう)(スポンジ状の巣)は断熱性・保温性に非常に優れている。雨や凍結でも持ちこたえることができ、雪の中でも生存可能である。むしろ雪の中に埋もれることで、外気の極度な冷え込みや強風から守られ、春には全く問題なく孵化することが判明している。つまり、「雪に埋もれると死んでしまうから高い場所に産む」という前提自体が生物学的にあてはまらない。

c、産卵場所の基準は「その時の環境」である:

 カマキリが産卵場所を決める基準は、未来の天気予知ではない。実際には、風で折れにくい枝や雨がかかりにくい場所といった「風雨から守られる強度」や、「鳥などの天敵から隠れやすい場所」、「草木の高さや周辺の建造物といったその個体の移動能力や状況」など、その時点での環境や条件を基準に安全だと判断した場所に産卵している。昆虫観察の経験からも、カマキリは極めて適当な場所や高さに産卵しているのが現実である。

3. 錯誤を生んだ最大の要因「現象と結果の取り違え」

 積雪量と産卵位置に何ら関係がないにもかかわらず、なぜこれほどまでに社会に誤った認識が定着したのだろうか。そこには、人間側の「現象と結果の取り違え」という観察バイアスが存在する。

 冬季において、雪の下に埋もれた卵は人間の視界に入らなくなる。そのため、人間が冬季に観察できるカマキリの卵は、必然的に「雪の上に出ている卵」のみとなってしまう。
雪の上に出ている卵の絶対数が、雪の下に埋もれた卵より優位であるという事実はない。

 しかし、雪による選別の結果として「目に見えている高い位置の卵」だけを認識した人間が、「カマキリが積雪量を見越して高い場所に産卵した」という誤った因果関係を想定してしまったと考えられる。

 加えて、かつて学術界がこの「カマキリの雪予想」にお墨付きを与えてしまったことも、現在でも一般社会やマスメディアにこの説が浸透し信じられ続けている責任の一端として指摘されている。

4. 結論:見えないものに目を向ける重要性

 「カマキリが雪の量を予測している」という説は、人間が自然の不思議に感銘を受けて広まったロマンあふれる民間伝承(観天望気)に過ぎない。

 現実のカマキリは、越冬する位置と自身の生存には特に関係がなく、その時々の環境的条件から安全と判断した場所に極めて適当に産卵しているだけである。雪上に見える卵嚢だけで雪を予想しようとするのは、現象と結果を取り違えた観察の偏りと言える。自然の言い伝えを検証する際には、目に見える現象だけでなく、雪の下に隠された「見えないもの」も含めて観察する客観的な視点が欠かせない。

雪の上の卵だけを数えていた
―「カマキリの雪予想」はなぜ間違いなのか-
2026年9月30日 · 横田俊英

雪の上の卵だけを数えていた――「カマキリの雪予想」はなぜ間違いなのか 横田俊英(2026年9月30日)

カマキリは雪の深さを知っているのか

 「カマキリが高い所に卵を産んだ年は大雪になる」。雪国に古くからある言い伝えである。カマキリは冬に積もる雪の深さを前もって知っており、卵が雪に埋もれない高さを選んで産む、という話である。

 この話が広く知られるようになったのは、新潟県の酒井與喜夫氏の研究がきっかけである。酒井氏は長年カマキリの卵を観察し、言い伝えには統計的な裏付けがあるとする論文をまとめた。この論文で長岡技術科学大学から博士の学位を得ている。学位という学術的な後ろ盾を得たことで、この説はテレビや新聞で繰り返し取り上げられ、「生き物の知恵」として定着した。

 ところが、この説は実験と野外調査によって否定されている。カマキリの卵と積雪量のあいだに、関係はない。

「雪に埋もれると死ぬ」は本当か

 酒井説は次の前提に立っている。卵が深い雪に埋もれると、雪の重みで呼吸ができなくなり孵化できない。だから親は雪より高い所に産む、というものである。

 まず、この前提が成り立たない。カマキリの卵は、泡を固めたスポンジ状の卵嚢(らんのう)に包まれている。オオカマキリでは一つの卵嚢に126〜423個の卵が入り、外の環境の影響を直接受けない構造になっている。卵嚢(らんのう)は雨にも凍結にも耐える。

 弘前大学名誉教授の安藤喜一博士は、定年退職後の17年間、主に自宅でカマキリを研究してきた。その成果をまとめた『SCIENCE WATCH カマキリに学ぶ』(北隆館、2021年)によれば、雪に埋もれた卵嚢(らんのう)もほとんどが無事に孵化する。そもそも雪国の卵嚢(らんのう)は、冬にはほとんどが雪に埋もれる。それでも次の世代は毎年生まれている。

 雪の中は温度が0℃前後に保たれやすく、外の厳しい冷え込みや強い風が届かない。卵にとって雪に埋もれることは、むしろ守られることでもある。

卵の高さは何で決まるのか

 安藤博士の野外調査では、卵嚢(らんのう)が積雪より高い所にあるという傾向は見られなかった。卵嚢(らんのう)の高さと相関していたのは、産卵した草の草丈や木の樹高である。背の高い草にいたカマキリは高い所に産み、背の低い草にいたカマキリは低い所に産む。それだけのことである。

 筆者も長年昆虫を観察してきたが、カマキリはかなり「適当な」場所と高さに卵を産む。未来の雪を読んでいるのではない。そのとき近くにあった草木に産んでいるのである。

なぜ間違いが信じられたのか――見えない卵は数えられない

 では、なぜ「雪より上に産む」ように見えたのか。理由は単純である。冬に人が見ることのできる卵は、雪の上に出ている卵だけだからである。

 雪に埋もれた卵は見えない。見えないものは数えられない。そのため冬に雪国を歩けば、どの年であっても「卵は雪より上にある」という観察が必ず得られる。統計学でいう選択バイアス、あるいは生存者バイアスの典型的な例である。

原因と結果の向きも逆になっている。

誤った解釈:カマキリが積雪を予知して、高い所に産んだ
実際に起きたこと:積雪が低い所の卵を隠し、高い所の卵だけが見えていた

 雪による「選別」という結果を、カマキリの「予知」という原因と取り違えたのである。

 雪予想が正しいと言うためには、雪の上に出ている卵の数が、雪の下に埋もれた卵より明らかに多いことを示さなければならない。しかし、そのような事実はない。安藤博士の報告はむしろ逆で、雪国の卵嚢(らんのう)のほとんどは雪に埋もれている。

正しく確かめるには

 この説をきちんと検証するには、雪が降る前の秋に調査地の卵嚢(らんのう)をすべて数え、高さを記録しておく必要がある。そのうえで、何年分もの卵の平均の高さと、その冬の最深積雪を比べる。安藤博士の調査はこの方法で行われ、卵の高さは草丈や樹高で説明できるという結論に至った。

言い伝えが消えない理由

 安藤博士の反証は、15年ほど前から昆虫学の世界で報告されてきた。それでも一般には、今も多くの人が雪予想を信じている。弘前大学は、かつて学術界がこの説にお墨付きを与えたことにも責任の一端があると指摘している。テレビやラジオでも、ときに事実として紹介されてしまう。

まとめ

 カマキリの卵は、雪の上でも雪の中でも冬を越し、春に孵化する。卵の高さを決めるのはその場の草木であり、積雪量ではない。雪予想は、雪の上に出ている卵だけを見て生まれた、現象と結果の取り違えである。

 自然にまつわる言い伝えには夢がある。しかしそれを確かめるときは、見えないものまで含めて数えることが欠かせない。これは測ることの基本でもある。

参考文献
安藤喜一(2021)『SCIENCE WATCH カマキリに学ぶ』北隆館。弘前大学プレスリリース(2021年9月2日)
赤塚隆幸(2006)「鳥類によるオオカマキリの卵嚢に対する捕食」『Strix』24巻、69–75頁
tenki.jp(2016)「カマキリの雪予想について」

カマキリの雪予想はなぜ間違っているのか
-「現象と結果の取り違え」が生んだ自然のロマン-

 
文:2026年9月30日 · @横田俊英


カマキリの雪予想はなぜ間違っているのか-「現象と結果の取り違え」が生んだ自然のロマン- 文:2026年9月30日 · @横田俊英

1. はじめに:広く知られる「カマキリの雪予報」

 「カマキリが卵を産む高さで、その冬の降雪量(積雪量)がわかる」という話を耳にしたことはないでしょうか。これは一般に「カマキリの雪予報」として非常に有名な説です。

 この説は1980年代後半、新潟県の豪雪地帯で独自に観察を行っていた酒井与喜夫氏が著書を出版し、それがメディアで大きく取り上げられたことがきっかけで広まりました。「カマキリは卵(卵嚢(らんのう))が雪に埋もれて死ぬのを避けるため、積雪線より上に産卵する」という考えは、自然の神秘や生き物の知恵として社会に広く知られるようになりました。

 しかし、現代の生物学や気象学の調査・検証においては、この説に科学的根拠はないと完全に否定されています。

2. 科学が明かす「雪予想」の嘘

 弘前大学名誉教授の安藤喜一博士は、定年退職後17年にわたるカマキリ研究の成果をまとめた著書『カマキリに学ぶ』(2021年出版)において、実証的な実験や野外調査を通じ、この説の間違いを指摘しました。

 カマキリの産卵高度と積雪量の関係性が科学的に否定される理由は、大きく分けて以下の3点に整理できます。

a、産卵高度はバラバラであり、相関関係はない:

 研究者や昆虫愛好家が調査したところ、同じ年・同じ場所であっても、産卵高度は地上数センチの低い場所から2メートル以上の高い場所まで、個体によってバラバラであることが確認されています。カマキリの卵が積雪よりも高い場所に位置するという傾向はなく、実際には産卵する草丈や樹高と相関しているに過ぎません。また、長年にわたる生物観測データと気象庁の積雪データを照合した結果、「カマキリの産卵高度」と「その冬の最深積雪量」には統計的な相関関係が見られないことが実証されています。

b、雪に埋もれても卵は死なない:

 カマキリの卵嚢(らんのう)(スポンジ状の巣)は断熱性・保温性に非常に優れています。雨や凍結でも持ちこたえることができ、雪の中でも生存可能です。むしろ雪の中に埋もれることで、外気の極度な冷え込みや強風から守られ、春には全く問題なく孵化することが判明しています。つまり、「雪に埋もれると死んでしまうから高い場所に産む」という前提自体が生物学的にあてはまりません。

c、産卵場所の基準は「その時の環境」である:

 カマキリが産卵場所を決める基準は、未来の天気予知ではありません。実際には、風で折れにくい枝や雨がかかりにくい場所といった「風雨から守られる強度」や、「鳥などの天敵から隠れやすい場所」、「草木の高さや周辺の建造物といったその個体の移動能力や状況」など、その時点での環境や条件を基準に安全だと判断した場所に産卵しています。昆虫観察の経験からも、カマキリは極めて適当な場所や高さに産卵しているのが現実です。

3. 錯誤を生んだ最大の要因「現象と結果の取り違え」

 積雪量と産卵位置に何ら関係がないにもかかわらず、なぜこれほどまでに社会に誤った認識が定着したのでしょうか。そこには、人間側の「現象と結果の取り違え」という観察バイアスが存在します。

 冬季において、雪の下に埋もれた卵は人間の視界に入らなくなります。そのため、人間が冬季に観察できるカマキリの卵は、必然的に「雪の上に出ている卵」のみとなってしまいます。

 雪の上に出ている卵の絶対数が、雪の下に埋もれた卵より優位であるという事実はありません。しかし、雪による選別の結果として「目に見えている高い位置の卵」だけを認識した人間が、「カマキリが積雪量を見越して高い場所に産卵した」という誤った因果関係を想定してしまったと考えられるのです。

 加えて、かつて学術界がこの「カマキリの雪予想」にお墨付きを与えてしまったことも、現在でも一般社会やマスメディアにこの説が浸透し信じられ続けている責任の一端として指摘されています。

4. 結論:見えないものに目を向ける重要性

 「カマキリが雪の量を予測している」という説は、人間が自然の不思議に感銘を受けて広まったロマンあふれる民間伝承(観天望気)に過ぎません。

 現実のカマキリは、越冬する位置と自身の生存には特に関係がなく、その時々の環境的条件から安全と判断した場所に極めて適当に産卵しているだけなのです。雪上に見える卵嚢だけで雪を予想しようとするのは、現象と結果を取り違えた観察の偏りだと言えます。自然の言い伝えを検証する際には、目に見える現象だけでなく、雪の下に隠された「見えないもの」も含めて観察する客観的な視点が欠かせません。

カマキリの産卵高度と冬季降雪量の相関に関する検証
-「カマキリの雪予想」の真偽と錯誤の背景-

-2026年9月30日 · @横田俊英


カマキリの産卵高度と冬季降雪量の相関に関する検証-「カマキリの雪予想」の真偽と錯誤の背景-2026年9月30日 · @横田俊英

1. 緒言

 「カマキリが卵を産む高さで、その冬の降雪量(積雪量)がわかる」という説は、一般に「カマキリの雪予報」として非常に有名である。この説は1980年代後半、新潟県の豪雪地帯で独自に観察を行っていた酒井与喜夫氏が著書を出版したことが契機となり、メディアで大きく取り上げられた。これにより、「カマキリは卵が雪に埋もれて死ぬのを避けるため、積雪線より上に産卵する」という考えが、自然の神秘や生き物の知恵として社会に広く知られるようになった。

 しかし、現代の生物学や気象学の調査・検証においては、この説に科学的根拠はないと否定されている。弘前大学名誉教授の安藤喜一博士も、17年にわたるカマキリ研究の成果をまとめた著書『カマキリに学ぶ』(2021年出版)において、実証的な実験や野外調査を通じて本説の間違いを指摘している。本稿では、この俗説が否定される科学的理由と、なぜ社会に誤った認識が定着したのかについて考察する。

2. 科学的に否定される根拠

 カマキリの産卵高度と積雪量の関係性については、以下の観点から明確に否定されている。

a、産卵高度のばらつきと相関関係の欠如:

 研究者や昆虫愛好家の調査によれば、同一の年・同じ場所であっても、産卵高度は地上数センチから2メートル以上まで個体によってバラバラであることが確認されている。

 カマキリの卵が積雪よりも高い場所に位置するという傾向はなく、産卵高度は産卵対象の草丈や樹高と相関しているに過ぎない。

 長年にわたる生物観測データと気象庁の積雪データを照合した結果、「カマキリの産卵高度」と「その冬の最深積雪量」には統計的な相関関係が見られないことが実証されている。

b、卵嚢の優れた耐寒性:

 カマキリの卵嚢(らんのう)(スポンジ状の巣)は断熱性・保温性に非常に優れている。

 雨や凍結にも持ちこたえ、厳しい寒さや乾燥から卵を守る構造になっている。

 むしろ雪の中に埋もれることで、外気の極度な冷え込みや強風から守られ、春に全く問題なく孵化することが判明している。

 したがって、「雪に埋もれると死んでしまうから高い場所に産む」という前提自体が生物学的にあてはまらない。

c、実際の産卵場所の選択基準:

 カマキリが産卵場所を決める基準は、未来の天気予知ではない。

 実際には、風で折れにくい枝や雨がかかりにくい場所といった「風雨から守られる強度」を基準としている。

 その他にも、「鳥などの天敵から隠れやすい場所」や、「草木の高さや周辺の建造物といったその個体の移動能力や状況」など、その時点での環境や条件を基準に安全だと判断した場所に産卵しているだけである。

3. 錯誤が生じた背景(現象と結果の取り違い)

 積雪量と産卵位置に何ら関係がないにもかかわらず、この説が信じられるに至った背景には、人間側の「現象と結果の取り違い」という観察バイアスが存在する。

 冬季において、雪の下に埋もれた卵は人間の視界に入らない。そのため、人間が冬季に観察できるカマキリの卵は、必然的に「雪の上に出ている卵」のみとなる。雪の上に出ている卵の絶対数が雪の下のそれより優位である事実はないにもかかわらず、目に見える卵だけを認識した結果、「積雪量を見越して高い場所に産卵した」という誤った因果関係を想定してしまったと考えられる。

 さらに、かつて学術界がこの「カマキリの雪予想」にお墨付きを与えてしまったことも、一般社会やマスメディアにこの説が浸透し、現在でも信じられ続けている責任の一端として指摘されている。

4. 結論

 カマキリの産卵高度と冬季の降雪量(積雪量)にはいかなる因果関係も存在しない。卵は雪の中や凍結状態でも生存可能であり、越冬する位置はカマキリの生存とは無関係である。「カマキリが雪の量を予測している」という説は、人間が自然の不思議に感銘を受けて広まったロマンあふれる民間伝承(観天望気)に過ぎない。現実のカマキリは、極めて適当な高さや位置において、その時々の環境的条件から安全と判断した場所に産卵しているに過ぎないのである。

カマキリの産卵位置と積雪量予測に関する再検討
(副題:雪上に見える卵嚢(らんのう)による「雪予想」は現象と結果の取り違えである)

2026年9月30日 · @横田俊英

カマキリの産卵位置と積雪量予測に関する再検討(副題:雪上に見える卵嚢(らんのう)による「雪予想」は現象と結果の取り違えである)2026年9月30日 · @横田俊英

要旨

 「カマキリは積雪を予知し、雪に埋もれない高さに産卵する」という説(カマキリの雪予想)は、科学的根拠を欠く。カマキリの卵嚢(らんのう)は雪上でも雪中でも越冬し、春に孵化する。産卵の高さは、その個体がいた場所の草丈や樹高に左右される。

 冬に人の目に入るのは、雪の上に出た卵嚢(らんのう)だけである。雪に埋もれた卵嚢(らんのう)は数えられない。見える卵だけから「雪より高く産む」と結論するのは、観察の偏りによる現象と結果の取り違えである。本稿は、安藤喜一の検証(2021)を踏まえ、筆者の命題a〜gの妥当性を一つずつ検討する。

1. はじめに

 「カマキリが高い所に卵を産むと大雪になる」という言い伝えは、雪国に古くからある。新潟県の酒井與喜夫氏は長年の観察をもとに、この言い伝えが統計的に有意であるとする論文をまとめ、長岡技術科学大学から博士の学位を得た(tenki.jp)。

 酒井説の前提は次のとおりである。卵嚢(らんのう)が深い雪に埋もれると、重みで呼吸ができず孵化できない。そこで親は冬の積雪を予想し、大雪の年は高い所に産卵する、という。この説は学位という学術的な裏付けを得て、テレビや新聞を通じて広く信じられるようになった。

 本稿の目的は二つある。第一に、卵嚢(らんのう)の耐性に関する事実を整理する。第二に、雪予想が「雪の上に出ている卵を見ていただけ」の観察から生じた誤りであることを、論理の面から示す。

2. 先行研究:安藤喜一による検証

 弘前大学名誉教授の安藤喜一は、定年退職後17年にわたりカマキリを研究し、実験と野外調査によって雪予想を否定した。その成果は『SCIENCE WATCH カマキリに学ぶ』(北隆館、2021年8月20日)にまとめられている。主な知見は次の三点である。

a. 卵嚢(らんのう)が積雪より高い位置にあるという傾向はない。卵嚢(らんのう)の高さは、産卵した草の草丈や木の樹高と相関する。

b. 卵嚢(らんのう)は雪に埋もれても問題なく孵化する。深い雪に埋もれた状態を再現した観察でも、ほとんどが無事に孵化した(tenki.jp)。

c. 雪国の卵嚢(らんのう)は、冬にはほとんどが雪に埋もれる。それでも次の世代は毎年生まれている。

 安藤による反証は約15年にわたり昆虫学の世界で報告されてきた。しかし、かつて学術界が雪予想にお墨付きを与えたこともあり、一般には今も信じられている。

3. 確かな事実:卵嚢(らんのう)の耐性

 カマキリの卵は、泡状の保護材で包まれた卵嚢(らんのう)の中にある。オオカマキリでは一つの卵嚢(らんのう)に126〜423個の卵が入り、外部環境の影響を直接受けない構造をもつ(赤塚 2006)。筆者が確かな事実とするのは次の三点である。

事実 内容 裏付け

a、雨・凍結への耐性

卵嚢(らんのう)は雨にも凍結にも持ちこたえる
卵嚢(らんのう)の泡状構造、雪国での毎年の孵化

b、積雪量と無関係

積雪の多少に影響されず、雪の中でも持ちこたえる
安藤の埋雪実験
位置を問わない
雪の上、雪の中、雪の下で凍結した状態でも越冬する

安藤の野外調査

 むしろ雪に埋もれると、外気の極端な冷え込みや強風から守られる。雪に埋もれると死ぬという酒井説の前提は、この段階で成り立たない。

4. 命題a〜gの検討と賛否

 命題の大筋は妥当である。ただしaは言い過ぎであり、表現の限定が要る。fとgは論理として正しいが、裏付けの資料を添えると強くなる。

命題 要点 判定

検討

a、越冬位置は生存と関係ない

 条件付き賛成

 積雪による死亡という意味では正しい。ただし雪上の卵嚢(らんのう)は鳥に食べられやすい(赤塚 2006)。「積雪に関しては生存と関係ない」と限定すべき

b、積雪量と卵の位置は無関係

賛成

卵嚢(らんのう)の高さは草丈・樹高と相関する(安藤)

c、産卵位置での積雪予測は想定違い

賛成

前提(埋雪で死ぬ)も結果(高さと積雪の対応)も成り立たない

d、雪上の草木への産卵を根拠にするのは誤り

賛成

a〜cから導かれる結論として妥当

e、冬に見える卵は雪上の卵

賛成

埋もれた卵嚢(らんのう)は人の目に入らず、数えられない

f、雪上の卵が雪下より多ければ関係を示すが、その事実はない

賛成

検証に必要な比較を正しく示している。安藤は雪国の卵嚢(らんのう)のほとんどが埋雪すると報告しており、逆の資料となる

g、カマキリは極めて適当な場所・高さに産卵する

賛成(補足)

筆者の観察経験と安藤の調査が一致する。「適当」は「その場の草木に従う」と書くと誤

解がない

命題1の「雪の下で凍結しても持ちこたえる」については補足が要る。雪中は温度が0℃前後に保たれやすく、雪上より冷え込みは小さい。凍結への耐性を強く言うなら、温度記録を伴う実測があるとよい。

5. 考察:現象と結果の取り違え

 雪予想の根本的な誤りは、冬に見える卵嚢(らんのう)だけを数えたことにある。雪に埋もれた卵嚢(らんのう)は観察者の視野から消える。そのため、どの年に見ても「卵は雪より上にある」という観察が必ず得られる。これは統計学でいう選択バイアス(生存者バイアス)の典型である。

 因果の向きも逆である。「カマキリが積雪を予知して高く産んだ」のではない。「積雪が低い卵嚢(らんのう)を隠し、高い卵嚢(らんのう)だけが残って見えた」のである。結果(雪による選別)を原因(カマキリの予知)と読み違えたことになる。

 説を正しく検証するには、秋の積雪前に調査区の卵嚢(らんのう)をすべて数え、高さを記録する必要がある。その上で複数年の平均高さと最深積雪を比べる。安藤の調査はこの形で行われ、卵嚢(らんのう)の高さは草丈・樹高で説明された。

 なお、インターネット上には「全国の観測資料と気象庁の積雪資料を照合して相関がないことが実証された」とする解説もある。筆者はその調査の出典を確認できていない。引用する場合は原典の確認が要る。

6. 結論

 カマキリの産卵位置から積雪量を予測することはできない。卵嚢(らんのう)は雪上でも雪中でも越冬し、産卵の高さはその場の草木に従う。雪予想は、雪の上に出ている卵だけを見て得た観察から生まれた、現象と結果の取り違えの事例である。

 筆者の命題a〜gは、この結論を支える。ただしaは「積雪に関しては」と限定し、鳥による捕食など他の要因を別に扱うべきである。自然の言い伝えを検証するときは、見えないものも含めて数えるという測定の基本が欠かせない。

参考文献
1. 安藤喜一(2021)『SCIENCE WATCH カマキリに学ぶ』北隆館、A5判214頁。紹介:弘前大学プレスリリース
2. 赤塚隆幸(2006)「鳥類によるオオカマキリの卵嚢に対する捕食」『Strix』24巻、69–75頁、日本野鳥の会
3. tenki.jp(2016)「カマキリの雪予想について」(酒井説と安藤の反証の紹介)
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